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 『化鳥』 青空文庫

この猿は、誰が持主といふのでもない、細引《ほそびき》の麻繩で棒杭《ばうくひ》に結《ゆわ》えつけてあるので、あの、占治茸《しめぢたけ》が、腰弁当の握飯《にぎりめし》を半分与つたり、坊ちやんだの、乳母《ばあや》だのが袂《たもと》の菓子を分けて与つたり、赤い着物を着て居る、みいちやんの雀だの、青い羽織《はおり》を着て居る吉公《きちこう》の目白だの、それからお邸《やしき》のかなりやの姫様《ひいさま》なんぞが、皆で、からかいに行つては、花を持たせる、手拭を被《かむ》せる、水鉄砲《みづてつぽう》を浴びせるといふ、好きな玩弄物《おもちや》にして、其代《そのかはり》何でもたべるものを分けてやるので、誰といつて、きまつて、世話をする、飼主《かひぬし》はないのだけれど、猿の餓ゑることはありはしなかつた。

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