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『人魚の祠』 青空文庫
しかし、綺麗に泳いで行く。美《うつくし》い肉の背筋を掛けて左右へ開く水の姿は、軽い羅《うすもの》を捌《さば》くやうです。其の膚の白い事、あの合歓花《ねむのはな》をぼかした色なのは、予《かね》て此の時のために用意されたのかと思ふほどでした。
動止《うごきや》んだ赤茶けた三俵法師《さんだらぼふし》が、私の目の前に、惰力で、毛筋を、ざわ/\とざわつかせて、うツぷうツぷ喘《あへ》いで居る。
見ると驚いた。ものは棕櫚の毛を引束《ひツつか》ねたに相違はありません。が、人が寄る途端に、ぱちぱち豆を焼く音がして、ばら/\と飛着いた、棕櫚の赤いのは、幾千万とも数の知れない蚤の集団《かたまり》であつたのです。
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