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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 とても尋常ではいかん、と思って、もう唯、その一人行方の知れない、稚《おさな》ともだちばかり、矢も楯も堪らず逢いたくなって来たんですが、魔にとられたと言うんですもの。高峰《たかね》へかかる雲を見ては、蔦をたよりに縋りたし、湖を渡る霧を見ては、落葉に乗っても、追いつきたい。巖穴の底も極めたければ、滝の裏も覗きたし、何か前世の因縁で、めぐり逢う事もあろうか、と奥山の庚申塚に一人立って、二十六夜の月の出を待った事さえあるんです。
 唯この間――名も嬉しい常夏の咲いた霞川という秋谷の小川で、綺麗な手毬を拾いました。
 宰八に聞いた、あの、嘉吉とかいう男に、緑色の珠を与えて、月明《つきあかり》の村雨の中を山路へかかって、

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