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俺様の思うところ

 変わった子だなぁ。

 それが俺様の彼女への第一印象。
 いや、初めて会った時は敵の間者かと疑ったくらいだから、正確には彼女の事を身内として考えるようになってからの印象、だろうか。
 彼女と言うのは、突然俺達武田軍に降りてきた異世界の少女で、俺はちゃんと呼んでいる。
 少女と呼ぶには語弊があるかもしれない。何せ彼女、やたら背が高くて俺の主、真田幸村と同じかそれ以上。少年体型で顔立ちも童顔だけど凛々しくて、どちらかと言えば少女と言うより少年の様だと思う。本人にうっかり言った事があるけど、別に非難はされなかった。本人も自覚有り、らしい。
 本来だったら合戦準備中に紛れこんできた外部の者なんて、捨て置くか切り捨てるかするんだけど、どう言うわけかそういう話は出なかった。寧ろ彼女が妹を探していると言う話に同情して、協力を申し出たくらいだ。変な話だけどそれが当然、と言う流れだった。今にして思えば無茶苦茶変だけど。
 大将の保護下に置かれたちゃんは、真田の旦那の話相手をしてくれて大変助かった。何せ旦那と来たら、多分本人無自覚と言うか親切心で言ってるんだろうけど、裏方も率先してやりたがる。けど大体裏目に出て、後始末が大変だったりするんだけど、ちゃんの話相手をする事に決まってからは、尊敬する大将からの命令と言う事もあって、そっちを優先。自然、後始末が少なくなるという事で実はちゃん結構裏方さんに人気者。しかも彼女、言葉遣いが丁寧で礼儀正しいから、上の人間も難癖つける事も出来ず、大将や旦那の入れ込み様を見て、蔑ろには出来ないな、と思ったらしい。こう言っちゃ悪いけど、何処の馬の骨とも判らない人間にしては厚待遇だと思う。
 大将が入れこんでるのには訳が有る。いや、実は俺もそうだし真田の旦那もそうだと思うんだけど、ちゃんの話、面白いんだ。聞いてるだけでワクワクするような、驚く事も沢山有り、で暇があったら話をしに行く旦那の気持ちも判る気がする。
 歴史が微妙に違うから参考にはならないけど、と前置きした上で話してくれた各地の武将の事は、重なる部分も有って大将にはずいぶん参考になった様だ。ただ、これから誰が天下をとるとか、生死に関わる事は教えてくれなかったけどね。歴史が違うから参考にはならないなんて言ってたけど、本当はそれ以外に言えない理由も有ったんじゃないかな、なんて俺は考えてる。
 まぁそれはさて置き、ちゃんが面白い子なのは事実で、その妹って言うのも実はかなり期待してたんだけどね。

 期待通りと言うかそれ以上と言うか。何でしょうね、この娘さんは。


サーン。何でそこで倒れてるのさ。」
「趣味と言いたいトコだけど、猿ちゃんが引っかかるの待ってたのだよ。」
 真田の旦那の所に行こうと庭を横切っていたら、何故か庭先で倒れている人間が居た。誰かと思ったらちゃんの妹のサン。まぁ俺もね? 人として何かあったのかと思って心配して訊いてみたんだけど、その答えがこれだから。
「引っかかるって……じゃあ俺様上手く釣り上げられたって事?」
「うん。釣れて嬉しいねぇ。」
 飄々と答えるサンは、立ち上がって俺を手招きして辺りを窺う。
 何か聞かれて拙い話でもあるのかと思って、傍に寄ると「わんこ知らない?」だった。
「旦那ならちゃんの所じゃないの? 俺今から行く所だけど何か用?」
 彼女が言ってるのは真田の旦那の事。伝言でもあるのかと思って逆に訊いてみる。
ちゃんの所に居ないから訊いたのだよ。…とすると虎さんの所かな。」
「大将の所に行くのは良いけど、迷惑かけないでよ。」
「そんなつもりは無いけど? 何なら猿ちゃんでも良いや。、癒されたい。」
「何それ。」
 思わず呆れて訊き返してしまった。癒されたいって、それ忍びに対する言葉かね?
「癒してください。いや、癒せ。」
「勘弁してよ。」
 そう言いつつ、庭を横切ってサンを縁側に座らせると、持っていた団子を渡す。本当は旦那に渡そうと思っていた奴なんだけど、まぁ良いか。団子を見たサンはそれが本当は誰のモノか判ったみたいで、面白そうに口をつけた。
「良いの? わんこ悲しむよ。」
サンに食べさせるなら大丈夫でしょ。全部食べきれるとも思わないし。」
 実際、団子は山の様に有って一人で食べきれるとはとても思えない。サンも結構食べる方だけど、それを見込んで山ほど買った俺って、結構先見の明有りだと思う。
 幸せそうに食べる姿を見つつ、ちょっと気になって訊いてみた。
サン、癒されたいって何かあったの?」
「んー……独眼竜がね……。」
 伊達の旦那がどうかしたのか。そう言えば今日は朝から姿が見えない。いや、あの人も自分の城に居る時くらい、仕事ぐらいするだろうから溜め込んでた仕事でもしてるんじゃないかと思うんだけど。
「何で側室どころか正室も居ないんだって言ったら怒ってさ。」
「はぁ?」
 あんまりにも意外な言葉に、思わず間抜けな返事をしてしまった。だけどサンはそれに気付くこと無く、と言うか気付いてても気にしないで続きを言う。
「だって普通独眼竜位の歳と立場なら、側室の一人や二人や三人はいてもおかしく無いじゃないですか。なのにさー。」
 そう言って溜息をつく。
 いや、あのね、サン。それ言ったら確かにそうではあるんだけど。だけど伊達の旦那もそりゃ怒るよ。
 思わずそう言いかけた俺は無理矢理その言葉を飲み込む。だってそれは多分、伊達の旦那は絶対に口にしないだろうし。サンも知りたくないだろうし。もし知るとするなら、伊達の旦那が言わないと。俺が言うべき事じゃない。
 だから代わりの言葉を探す。
サン、何でそんな事訊いたの。…伊達の旦那、天下統一するまではそれどころじゃ無いって言ったでしょ?」
「おお、凄い。その通り。」
 ぱちぱちぱち、と手を叩かれた。良かった、当てずっぽうだけど正解だったようで。
「何でかって言うとですねー。女の子に飢えてるんですよ。。」
「…………はい?」
「だってここ、野郎ばっかりで潤いが無いから〜。いや、ハンサム揃いだから潤いが有ると言えば有るけど、の求める潤いが無い〜。」
 とうとうと訴えるサンには悪いけど、理解できない。
 はんさむに俺も含まれるのは嬉しいけど(意味は以前教えてもらった。確か良い男、だった気がする。)求める潤いって何だろう。
「猿ちゃんだって偶には女の子の柔肌を撫で刳り回したいとか、抱きしめたいとか、兎に角触りたいとか、思いませんか? 思いますよね? 思え。」
「いや、それはそうだけど、何でサンがそう思うのよ。」
 おかしいよ、それ。
 そう言おうとした正にその時、スパーン、と景気の良い音が二つ響く。

Frolic!
 伊達の旦那が思いきり障子を開いて。
「バカな事言ってるんじゃないの!」
 ちゃんが思いっきりサンの頭を叩く。

 同時に出てきた二人に責められて、サンが俺に泣きつく。
「猿ちゃ〜ん、二人が虐める〜。」
「いや、俺もそれは仕方無いと思うよ。」
 俺の言葉に頷く二人と、大袈裟に項垂れる一人。
「佐助さんすみません。与太話につき合わせちゃって。も人様に迷惑かけるなって。」
 ちゃんはそう言うとそのままサンの手を引いて、屋敷の奥へと連れて行く。多分、大将か真田の旦那の所へ連れて行くんだと思う。…妥当だね。サンは退屈しのぎに俺を構っていただけだろうから。連れて行かれたサンは肩を竦めつつ、振り返り小さく手を振った。


「流石に姉には弱ェみたいだな。Ha!」
 楽しそうに伊達の旦那が言う。
 それは俺も思うけど、でもサンも本気じゃないよね。彼女が本気で俺達をどうこうしようと思ったら、簡単に出来る力を持ってる訳だし。…実際やられた事あるし。
「ねぇ旦那。」
「なんだ猿。」
「……猿はやめようよ。サンじゃあるまいし。」
 顔を顰めてそう言うと、じゃあ佐助、と言い直した。う〜ん、取り敢えず言っていいのかな? 俺。
「俺から言うつもりは無いし、サンも聞きたくないだろうし、旦那も言うつもりは勿論無いんだよね?」
「……何を、だ。」
 一気に機嫌が悪くなる。と言うことは俺様の言ってる意味が判ってるって事か。じゃあぼかすの止めようかな。
「旦那がサンの事好……うわっ! やめてよっ!!」
 言ってる途中で伊達の旦那が何処から取り出したのか、愛刀で斬りつけてきた。あっぶねー。咄嗟に屋根に逃げると、伊達の旦那が見上げて怒鳴る。
「猿っ! 勘違いするなよ! 俺がアイツをどう見てようが絶対にそれじゃねぇからな! Understand?
「いや、わかんないから。じゃ何?」
 屋根の上から問いかけると、何だか舌打ちが聞こえて、ぼそりと呟きが漏れる。
Longing for……。
 だから、それじゃ俺様判らないんだけどねぇ。でも、まあ良いか。
 ひょいともう一度庭に下りて伊達の旦那に確認する。
「旦那は『ソレ』とは違う感情をサンに持っていて、その事を他の人には言われたくないし、サンにも知られたくない。そういう事?」
「…そうなるな。」
 アレとかソレとかぼかすような言い方は好きじゃないんだけどねぇ。仕方無いか。大体どう見ても『ソレ』なんだけど、伊達の旦那、自分で判ってないんだろうか。ひょっとして。
 縁側に腰掛けて、庭を眺めつつ旦那がボソリと続ける。
「戸惑っているんだろうな、俺は。アイツが……10年前と変わってるのか変わっていないのか判らない所とか、俺自身が変われたのかそうでないのか。判らねぇから……苛つくんだ。」
 そう言って庭を眺めている旦那はどう言う訳か、途方にくれた子供に見えた。目を瞬かせて見直せば、やっぱり其処にいるのは隻眼の竜で、子供は何処にも見当たらない。
 俺はさぁ、自分でも思うんだけど色々な事に首を突っ込み過ぎだよね。でも性分だから仕方無いし。
サンは変わってないと思うよ。旦那が変わったから、そう見えるんじゃない?」
「かも知れねぇ。」
 10年前のサンがどんな人だったのか、旦那がどう言う子供だったのかなんて俺様には関係無いけど、それだけは確か。多分サンは今と同じ様に飄々として、よく判らなくって、だけど多分頼りになる人だったんだと思う。
 …ああ、そっか。
「憧れてたんだねー。子供心に。」
 ポロッと言うと、珍しく何も反応が無くて、チラッと見たら耳まで赤くなっていた。あらら。あんまりからかうもんじゃないかも。
 そう思ったら案の定。
「Hell Dragon!」
 慌ててサンが縁側に置いていった団子を持って、逃げ出した。
 怒り心頭で当り散らすかと思ったけど、逃げた俺様を追いかける様に聞こえてきたのは伊達の旦那の笑い声だった。


 大将に宛がわれた部屋に行くと、やっぱりいた真田の旦那とちゃん、それとサンが世間話をしていたようだ。旦那に団子を渡すと、きらきらと嬉しそうに見られたが、直ぐにその量の少なさにがっかりされた。それでも結構多いんだけど。
 何だかその姿が言っちゃなんだが子犬が耳を垂らしてがっかりしているみたいで、サンが旦那のことをわんこと呼ぶ気持ちも判る気がする。見れば、サンはそんな旦那の様子を微笑ましそうに見守っていた。…ああ、癒されるってこう言う意味。
「文句はサンに言ってよね。途中でつまみ食いしたのはサンだから。」
 恨めしそうに見られたのでそう言うと、旦那は慌てて否定した。
「い、厭っ、べっ、べべ別にそんな事は無いぞ! 団子は皆で食べるものだ。うむ。」
 そう言って包みを広げて皆に振舞う。
 やれやれ、これでお仕事終わりっと。そう思った矢先、呼び止められる。
「猿ちゃん、ちょっと待って。」
 何だか厭な予感がして、聞こえなかった振りをする俺を、もう一度サンが呼び止めて言う。
「ちょっと待って下さいよー、佐助さん。」
 ぴたり、と動きの止まった俺様の耳元で小さく囁く。
「余計な詮索、した?」
「詮索はしてない……と思うよ? でもそれそもそも俺様の仕事。」
「しない方が良いですよ。判ってないんだから。」
 誰が、とは言わないので逆に訊いてみる。
サンは判ってるの?」
「さーて、どうだろう? 少なくとも判らない振りはしないけど、判ってるとも言わないからね。その辺が違うでしょ?」
「二人とも素直じゃ無さ過ぎ。」
 思わず呆れてそう言うと、サンは女の子にあるまじく、口の端だけ歪めて笑った。いやちょっとそれ似合い過ぎ。
「素直な達なんて想像出来ます? 佐助さん。捻くれてナンボ、ですよ。Okey-dokey?
「い…いえ〜い?」
 何となく覚えてしまった受け答え。一瞬驚いた顔をしたサンは、楽しそうに笑った。


 後日、もし女の子が身近にいたらどうするのか聞いてみたら、女の子は近くにいるだけで癒されるんですよ、だって。ついでに触りまくれればもっと良いけど、なんて言っていたのでちゃんに「冗談が過ぎるよね。」と言ったら、「いや、あれは本気。」と真顔で言われた。

 本当に、変わった子だよね。



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タイトルに意味は無し。
この話、主人公が伊達の居城で暮らし始めて間も無くの事です。で、この後訪問者あり。
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佐助メインの閑話。主人公観。佐助の一人称をどうしようか悩んで結局混在。
アレとかソレとか色々ぼかして言ってますが、最終的にどうするかは未定。本当にそうなのか、勘違いか。でも何となくそう言う雰囲気にさせたくなっても来たので、成り行きに任せようと思います。
所で、主人公が女の子に飢えていると言ってますが、別にレズではありません。
個人的には佐助は世話焼きでいて欲しい。
実を言うとこの後本編に続きます。
やさぐれた主人公と世話焼き佐助と凹み政宗が書きたかったようです。でも主人公の謎さ加減が益々際立った気がします。気のせいですか?