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このままもう少し

「眠い……。」
 夏は眠い。いや、本当に。特に夕方なんて眠さ最高潮。
 訳も無く眠くて座りながらぐらぐら揺れていたら、左隣から手が伸びて来た。
「お前、眠いんなら我慢しないで寝ろよ。ったく、肩くらい貸すぞ?」
「え〜……肩〜?」
 文句を言いつつそれでも良いかなぁと思っていると、右隣からも手が伸びて、身体が反対側に傾いだ。
「肩より膝だろ?」
 何だか の知らない所で何かが起きているらしい。眠いからそれ以上は追求しないが……でも男の膝は固くて厭だな。特にこいつら筋肉で出来てるから余計固いし。
 動くのも億劫だしどうしようかなぁと思っていると、聞き慣れた足音がしてきた。
「何やってんですか、三人で。」
ちゃん。膝枕して〜。」
「あっ、おいっ!」
 ずるずる声のする方に這って行ったら、慌てたような声。それは放っておく。
「厭だよ、重いもん。そんな事だと思って、お昼寝枕持って来たからそれで我慢しなさい。」
「わ〜い、 ちゃん好き好きー。一緒に寝る?」
「用事あるからパス。」
  の用事は気になるが、それよりも睡眠。
 枕を整えて頭をつけたら直ぐに眠りに誘われた。


 程なく寝息を立て始めた の両側に、また男二人が陣取る。一体何をやっているんだ、この二人は。
 私は呆れてその妙な構図を暫く眺めた。
 寝ている の右側に政宗さん。左側に元親さん。
 これは、アレだな。お互い並んで座りたくないって言うのも勿論だろうけれど、利き目側に を置いておきたいって心理が働いていると見た。
 この二人、結構気も馬も合うくせに、 が関わるとダメなようだ。本人達は否定するけど、周りから見たら張り合っているとしか思えない。間に入って仲裁する身にもなって欲しい。
「政宗さん、景綱さんが探していましたよ。 は私が見てますから、行ってきたらどうですか?」
「どうせ下らない事だ。今日の仕事は終わってる筈だから、用がありゃ向こうが来れば良い。」
 判っていた事だけど、却下された。まぁ良いんだけどね。元親さんが物凄く残念そうな顔しているのが何となく笑える。
「で、三人で一体何をしていたんですか? 別に が眠くなるのを待ってた訳じゃないでしょう。」
「別に寝て欲しかった訳じゃ無いけどな……。」
 元親さんが自分の羽織っていた上着を にかけつつ言う。こう言う所まめだなぁ。政宗さんもそうだけど。ふとそちらを見ると、先を越された、って顔をしていた。
 ダメだ、本当に笑えて来た。
「しかし本当に良く寝る奴だな。何時もこうなのか?」
「まぁ春夏秋冬問わず何時も眠たがってますけど。それは単なる睡眠不足で、今みたいに昼夜問わずって訳では……。」
「やっぱりアレか。こいつの力のせいか?」
「多分。」
 短く返事をして の様子を窺うと、なんだか眉を寄せて難しい顔をしている。魘されている訳でも無さそうだけど、起こした方が良いだろうか。と、何か言いたい事でもあるのか口を僅かに動かした。
 気になって耳を寄せると何か呟いている。
「…? え? 政宗さん?」
「俺か?」
 自分の名前を出されたからか、政宗さんも の顔に耳を寄せる。当然の用に元親さんも。
 変な図だなぁ。寝てる人間の顔の近くに3つも。
 眉を寄せているだけで何も言わないなぁ、と思って顔を放した途端、突然 が叫んだ。
「ぎゃわーーーっ!? 痛っっ!?」
「ぐわっ!」「Ouch!」「どあっ!」
 叫んだと同時に起き上がったので、政宗さんと元親さんがモロに頭をぶつけ、私も勢いに押されて思わず叫ぶ。
「だ―っ、何? 痛っ! あー、動悸息切れ目眩がする……。」
 額を抑えながら、 が言う。一体何があったのか。
「どうしたの、 。変な夢でも見たの?」
「夢……そうか、夢か。…良かった……もの凄い悪夢だった……。」
 放心したような に、政宗さんが何か癪に障る事でもあるのか苛立って言った。
「どんな悪夢だ。」
「そう言えば竜がどうとかマサ何とかって言ってたけど、政宗さんが夢に出て来たの?」
「え? 違う違う。出て来たのは天の青龍。有川兄と言うか還内府。」
 その言葉に私は驚き、政宗さんたちは渋い顔をする。彼等は多分、自分達の知らない名前が出て来た事が気に食わないんだろう。しかし何でよりにもよって有川将臣で悪夢?
「何で有川将臣が出てきて悪夢になるの? …普通、自分の好きな人が出てきたら悪夢にはならないと思うけど……。」
「好きな人?」
「こいつのか?」
 しまった。うっかり言ってしまった。
  の好きな人、に色めきたつ二人。まずい。
 私の焦りに気付かないのか、 は一瞬遠い目をして溜息を吐いた。傍から見たら恋に悩んでいるみたいじゃないか。わざとやってるのかなぁ。…政宗さん達の背後に黒いオーラが見える気がする。
「好きっつーかお気に入りっつーか。まぁ彼は顔も性格も声も好みなんで、つい甘やかしましたがね。それにしたってあれは無いと思う。思い出しても腹が立つなぁ。」
「何を思い出したの?」
「聞くとがっかりするよ。」
「良いから教えろ。」
「えぇ〜、いやあぁ〜。… ちゃんだけ教える。」
  はそう言うと私に耳打ちする。その内容に思わずこけて、その勢いで前転しそうになった。
「厭な夢でしょ? それも夢だからさ、よりにもよって八葉総出で白龍と知盛まで一緒にやってたんだよ?」
「…それは確かに厭な夢だ……。」
 何だか頭痛がしてきた。
 私の頭痛は から聞いたバカな夢の内容だけでなく、傍にいる男二人の厭な雰囲気にもよる。…このままここにいるのは拙い。
「えーと……私、用事を思い出しましたのでこの辺で……。」
 そう言って立った私に政宗さんが声を掛ける。
「待てよ、 チャン。つれないじゃねぇか。もうちょっと話をしないか?」
「そうそう、ゆっくり、な?」
「え、遠慮しますー!」
 あの二人にタッグを組まれたら堪らない。慌ててその場から逃げる事にした。すると余程気になるのか、追いかけてくる。
「やーめーてー! 私じゃなくて 構ってれば良いじゃないですかー!」
「先刻と言ってる事が違うぜ、 チャン?」
「ちょっと話すだけじゃねぇか。何で逃げるんだよ。」
「だって怖いーっ!!」
 逃げる私と追う政宗さんと元親さん。珍しい組み合わせに、通りすがりの人がぎょっとしていた。


  は一人でころりと横になった。まぁ眠気は覚めたかな。
 気がつくとリロリロと虫の声。ああ、確かに秋の気配。好きだなぁこういう感じ。
  が見た夢は、まぁ本当に馬鹿げたもので。以前やっぱりトリップした先での出来事。経緯は省くとして還内府こと有川兄が を同じ世界から迷い込んできた人間と思って、平家の京屋敷に連れて行ってくれた事があった。それで優雅に宴なんぞを催していたのだが……ダメだ、思い出したら笑えて来たと言うか怒りがこみ上げてきたと言うか。
 コロコロ寝返りを打っていると、どかどかと足音。追いかけっこは止めたらしい。
「おかえり。」
「…戻った。なぁ、どう言う夢だったんだ?」
ちゃんに聞かなかったの?」
「訊いたが、言えねぇだと。」
 ふ〜ん、まああんまり言える話でも無いしねぇ。でもそんなに気になるんなら、少しだけ教えておこう。これ以上追求されるのも面倒臭い。
「単にね、男10人のちょんまげ芸を見せられて夢見が悪かっただけですよ。」
「丁髷?」
 どうも益々謎になったらしいが、 からもこれ以上は流石に言うのは躊躇われる。どんな事かは勝手に想像してください、って感じ。
 酔った勢いとは言え、生で見せられた時は思わず蹴り飛ばしたからなぁ。良くあの時入道殿が怒らなかったと思う。まぁそんな事はさて置き。
「そうそう、お付き合い感謝ね。夕暮れ時何もしないでボーっと過ごすのって好きなんだ。特に好きな人達と一緒だとね。」
「……達、ね。まぁ良いけどな。」
 何だかボソボソ言ってますけど。
 夕暮れを待って移る空の色を眺めつつ、虫の声を聴いてゴロゴロするのって最高じゃないですか。感謝、感謝。
 いつか終わる時間だけど、もう少し。
 Leave it as it is。

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何故か遙かキャラが話題に。(笑)
ちょんまげ芸は下品な宴会芸です。それでも意味が判らない人はそのままでいて下さい……。