新国立劇場「アラベラ」

 音楽的な技術の問題ではなく、その独特の雰囲気が出せるかどうかという意味では、R.シュトラウスのオペラが日本人には一番難しい作品だと思っていた。日本人だけのR.シュトラウスなんて今まで舞台を観たことがなかったから、まずそのあたりが不安だった。

 しかし、こういうと失礼だが、意外にもR.シュトラウスの世界に、ウィーンの世界に引き込まれていった。「アラベラ」でここまで作品の雰囲気を出せたのだから、日本人にできないオペラはないんじゃないだろうか。もちろん、ウィーンやドイツのオペラハウスの舞台には程遠いかもしれないが、ここは日本なのだから、これで十分だ。

 舞台装置も雰囲気づくりに大いに貢献していた。1幕と3幕のホテルの装置が良かった。特に3幕のホテルのロビーは、フロントのカウンターなんかとてもよく雰囲気をだしてた。ただ2幕の舞踏会は、その華やかさに会場からため息がもれたが、私にはちょっと派手すぎるように思えた。

 続けて演奏される2幕と3幕の舞台転換の美しさは特筆すべきものがある。カーテンを下ろさずに、この劇場自慢の舞台機構を駆使して、舞踏会場が下に沈み、ホテルのロビーが奥から迫ってくるという転換を客席に見せつけたのだが、ふつうこういった場合舞台機構のすばらしさには感心するものの、芸術的感動は遮断されてしまうことが多い。ところが今回は、光の陰影を考慮し、視覚的に非常に美しい処理を施していた。これほどまでに美しい舞台転換は今まで見たことがない。感動のあまり思わず唸ってしまった。

(9月23日 新国立劇場)

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