オペラシアターこんにゃく座「セロ弾きのゴーシュ」

 こんにゃく座のアジアツアー帰国公演で、新演出の「セロ弾きのゴーシュ」(もっとも、私はこの作品は観たことがないので新演出であろうが旧演出であろうが同じなのだが)となると、私のオペラ食指がむずむず動く。しかも草月ホールなんてところも、こんな機会がない限り訪れることもなさそうだ。それに平日公演とはいえ夜7時の開演であれば、仕事を放り出して駆けつけても余裕がある。ぜひ行きたいとまでいかないが、できれば行きたいと思った。しかし、そう思った時には前売完売となっていた。ただ、なにがしかの当日券があるらしい。とりあえず行ってみるべきだ。

 だけどひとつ懸念もあった。「セロ弾きのゴーシュ」は子供向けではないのだろうか。出張公演ではなく本公演だし、帰国凱旋公演でもあるので、公演としては子供向けではないとしても、夏休みの最中だし、実際に子供が多ければ子供向け公演と変わらなくなってしまう。そんな懸念は、地下鉄の駅を降りた途端、公演のチラシを持った子供連れファミリーがいたことで、大きく現実味が増してきた。

 まあ、そんなことでへこたれることはなく、とりあえずホールまで行ってみると、若干アダルティな雰囲気が漂っていたので、いくらか安心して当日券を買い求めた。なんと立見席だったが、そんなに長い作品ではないだろうし、ここまで来ては諦められない。実際のところ1時間20分だったし、最初から立ち見を想定しているような広くて見やすい立ち見スペースだったので、それほど苦にならなかった。

 公演評は、この一座に対しては毎回同じ感想になってしまうが、演技の上手さは申し分ないし、歌だって全く聴き劣りしない。歌芝居というのではなく、紛れもなくオペラとして楽しめる。6人だけのキャストで、シーンとしては1人や2人だけの時でも、他の人たちも常に舞台のどこかにいて、物語の進行を助ける。その独特の雰囲気は、他では味わえないおもしろさがある。子供が多いせいか、客席の笑い方も奔放だった。ただ、他の大きな作品の時のような、笑いと同時にシリアスさがあるという感銘は小さかったが、それが逆に子供でも大丈夫な点なのであろう。

だけど、こんなに子供の多い公演なのに、当日券の立見席に、仕事帰りと思われる男や女が大勢押しかけているのには驚いてしまう。私も同類なので心強い。もっとも、今度来る時は、娘を連れ出して、子供に観させてやっているのですよ、という顔をして来るテもある。

(2003年8月7日 草月ホール)

戻る