東京室内歌劇場「セヴィリアの理髪師(パイジエッロ)」

 ここのところ「ドン・ジョヴァンニ」とか「トゥーランドット」とか、有名作品と同じ題材の違う作曲家による作品の上演が目立ってきている。そのなかでも昨年の、ヴェルディとは違う、つまりサリエリとヴォーン・ウィリアムズによるふたつの「ファルスタッフ」は、一見同じようなファルスタッフでありながら微妙にテイストの違っていて、それぞれ存分に楽しめた。

 それに比べると、今回のパイジエッロによる「セヴィリアの理髪師」は、ロッシーニの作品とのおもしろみの違いがあまり感じられなかった。パイジエッロの方が先にできたものなので、後で似たような作品を作られるとは思わなかったパイジエッロに何も責任はない。だが、ロッシーニの方がよく知られているので、どうしてもロッシーニに比べてどうだという見方をしてしまう。その違いがあまり感じられず、フィガロは同じフィガロであり、伯爵もロジーナもバルトロも同じ性格の同じ人なのである。ストーリーの細部もほぼ同じで、ロッシーニだと次はこういう展開になると思いながらみていると、パイジエッロでもことごとく同じになる。同じ題材なのだから当然のことといえばそうなのだが、それでも酷似している感じで、登場人物の言動に新しい発見がなかった。

 音楽はさすがにロッシーニの方に躍動感があるのだが、それでもなんとなく雰囲気は似ている。セレナードも嵐の間奏曲も雰囲気は同じだ。特別に新鮮味はなかった。専門的に聴き込めば違いは大きいのだろうけど、素人の愛好家が初めて聴いたところでは、パイジエッロの「理髪師」の改良版がロッシーニの「理髪師」って感じだ。

 作品からの感想はそんなところだったけど、演奏自体はとても良かった。響きも雰囲気もいい紀尾井ホールでの上演は、それこそ室内楽を楽しむような感じに浸れる。そういう状況で、若杉弘の指揮での演奏なのだから申し分はない。もちろん大掛かりな舞台は置けないのだが、強引にオペ・ピットは作っているし、多少の仕掛けもあるので、音楽だけでなく舞台としても十分に楽しめた。(2色表示の字幕が多少、品位を落としていたような気もするが。)

(2003年8月30日 紀尾井ホール)

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