東京室内歌劇場「インテルメッツォ」

 こういうと自分が通みたいで気が引けるけど、これは通好みの作品である。それもオペラ一般の通好みというよりは、R・シュトラウスの通好みの作品である。よっぽどR・シュトラウスのオペラとはどんな感じのものなのかということを覚悟しておかないと、演奏が始まってすぐさま眠くなってしまっても仕方がない。たとえオペラが好きというだけでは、退屈しかねない作品だ。

 ストーリーはとりとめもない夫婦ゲンカ。それ以上の内容はない。恋愛沙汰や権力闘争なんてない。確かに他人の夫婦ゲンカは、それはそれでおもしろい。ところどころ、ウンウンとうなずけるところもあったりして興味深かったりもする。でも先の展開は大体見えている。そもそもオペラにすべき話ではない。(よくよく見ると、台本はホーフマンスタールではなくて、R・シュトラウス自身であった。)

 R・シュトラウス通好みというのは、こういうどうでもいい日常の台本が、全編ほとんど語りでつながっているというところである。ただの夫婦ゲンカでもモーツァルトやプッチーニが題材にするのであれば、少なくとも音楽だけはなじみやすい「歌」となって耐えられるものになると思う。それがR・シュトラウスの会話しているだけの音楽で進むところが、よっぽどのR・シュトラウス好きでないと、おもしろさが分からないと思う。(ただ、作品としては、ずっと口語による会話で進むものの、最後の最後は美しい二重唱でシメるあたり、R・シュトラウスにおける音楽の優位は感じられる。)

 そういう作品を日本で上演するのは大変なことだと思うが、今回はキャストの言葉がとても明瞭で、たとえ私のようにドイツ語が理解できなくても、なんとなく分かったような気になってくる。子供の役までも、はっきりとしたドイツ語であった。それに何より若杉弘がR・シュトラウスを指揮したら、どんな作品でも最高の演奏になってしまうから凄い。この2月の「エジプトのヘレナ」でもそうだったが、R・シュトラウスで若杉さんだと、どんなに物語がヘンでも感動してしまう。そういう安心感がある。

 そういえば「エジプトのヘレナ」も子供のいる夫婦がなんだかんだいって仲良くなる話である。「インテルメッツォ」と基本は似ている。(舞台上の登場人物の格調は違うが。)なぜ今年に限って若杉さんはこういう作品を選んだのであろうか。たまたまどちらも妻には「R・シュトラウスのマイナー作品は難しいからやめた方がいい」と言って、私ひとりで観てきたが、こういう作品は夫婦で観るべきなのか、あるいは逆効果なのか。一緒に観る場合はそのあたりの判断に勇気がいるところである。(もっとも、妻は退屈で眠くなったであろうが。)

(2004年7月17日 新国立劇場中劇場)

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