新国立劇場「セビリアの理髪師」

 上演する側に立ったことがないのでよくわからないが、ロッシーニの演奏は難しいのだろうか。重要な作曲家であるのに、日本での上演は決して多くない。毎週どこかでオペラが上演されているこの国では、むしろ少ないと言えるかもしれない。ワーグナーより少ないかもしれない。

 聴く側からすると、ロッシーニのオペラは、少し早口があったりするが、他の作曲家より特別難しそうにも思えない。私は詳しい実状は知らないので偉そうなことは言えないのだが、聴く側としての率直な感覚でそう思う。R.シュトラウスのように雰囲気作りが難しいとも思えないし。

 作品数も多く、オペラ史上の位置付けも重要なのに、「セビリアの理髪師」しか上演されないのも不思議だ。日本では、他に「シンデレラ」がごく稀にかけられるぐらいで、セリアが上演されたら大騒ぎになるほどだ。私が思うに、「セビリア」は中途半端な面白さしかない。底抜けにおかしいわけでもなく、ドラマの盛り上がりもないし。「アルジェのイタリア女」とか「湖上の美人」の方がオペラとしては楽しいと思う。

 もっとも、こう思うのは私だけで、今回の新国立劇場の4回の公演が全て満席になるのだから、人気があるのも確かなこと。なんだか不思議だ。

 今回の公演も、歌も良く、舞台も工夫していて、全体としては良かったのに、何かひとつ感動できるところがなかった。私とこの作品の相性のせいだと思う。もっと聴き込めば感動できたかもしれない。

 ところで、私の観た日のロジーナは、現在サンフランシスコなんかで活躍している重松みか。関西二期会の出身で、私が学生の頃にはエルヴィーラやヴェーヌス、すずきなどを歌っているのを聴いたことがある。今回は久しぶりに日本に戻っての出演だったが、新国立劇場のプログラムには、なんと「今回が日本での本格的オペラ・デビュー」と紹介していた。ということは、関西二期会のあの立派な舞台は「本格的オペラ」ではなかったのだろうか。なんだか地方のオペラ活動が切り捨てられているような感じがする。

(10月11日 新国立劇場)

戻る