新国立劇場「カヴァレリア・ルスティカーナ」「道化師」

 私の浅いオペラ鑑賞暦を対象として断言するのも憚れるものがあるが、これは「道化師」としては名演に入るのではないだろうか。そうあからさまに客観的に言わなくても、私の観た6回の「道化師」の中では最も感動的な上演だった。

 なんといってもカニオの役どころがどれだけ真に迫っているかが大事なのであるが、ジャコミーニはまさしく名演技で、(もちらん歌も)、1幕最後のアリアが始まる前から涙が浮かんでくるほどであった。クライマックスもすっきりと正攻法で感動を盛り上げてくる有様で、劇場でオペラを観ていることを忘れてしまう。ネッダのガルスティアンも好演で、役になりきっているのが歌でも演技でも伝わってくる。トニオやカニオに対してだけでなく、時としてシルヴィオとのやり取りの中でも、真の強い現状不満な様子が表現しきれていた。ただ上品な美人系の容姿なので、コロンビーナに扮した時の安っぽさが足りないように感じられたのは、私の個人的な思い込みだろうか。トニオものっけから良くて、いやらしいだけでなく、人に好かれたいという単純な気持ちも表現されていた。

 阪さんの指揮も、「ホフマン物語」の時と比べると断然に良くて、完全に舞台と同一となったオーケストラの響きで、伴奏が語りすぎることもなければ、雰囲気がもの足りないということもなかった。

 前半の「カヴァレリア・ルスティカーナ」も「道化師」に負けないくらいの感動的な舞台となっていた。私はいつも「道化師」が期待の的で、「カヴァレリア」はその前菜的な感じで楽しんでいるだけだったのだが、今回は「カヴァレリア」から泣いてしまった。かなり涙を流してしまったのに、休憩前のカーテンコールはそんなに長く続かないので、目が濡れたまま席を立たなくてはいけなかった。

 サントゥッアァとトゥリッドゥの歌と演技が何にもまして良かった。演出も指揮も極めてまともに効果的に表現しているので、そうなるとキャストの力量で感動の度合いが決まってくるが、とても良く演奏されていた。アルフィオがちょっと南イタリアにしては硬質な印象があったぐらいで、それ以外は特に気になるところはなし。

 それと両作品とも合唱が素晴らしく良かった。それは音楽的なことだけでなく、演技としても言えることで、無難に立派にこなしていた。

 演出は時代を20世紀半ばにしているようだが、それは全く気にならない程度のことであるし、かえって衣裳やヘアスタイルで昔のイタリア的な雰囲気が漂っていた。(ドイツ人の演出家だから、イメージとしての南イタリアだろうけど。)正統的な演出で、キャストの歌や演技、あるいは合唱やオケの表現が生きる余地が十分にある、とてもいい舞台であった。

(2004年9月18日 新国立劇場)

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