佐倉市民音楽ホール「龍の雨」

 たしか、青島広志氏は最近の著作で、「オペラに民話は似合わない」といったような感じの至極まっとうなことを言っていたはずだ。しかし、今回私が初めて観た「龍の雨」は一見すると明らかに民話である。しかも千葉県北部に伝わる(現在でも本当に伝わっているのかは疑わしいが)、神様にいけにえを捧げて雨乞いするという、ごくごく平凡な話。つまりは印旛沼の由来の話で、結論的に地元愛で終わりそうな危険さを持つ題材である。青島さん本人の話とは違うではないか。しかも作曲だけでなく台本も青島さん自身である。あるいは16年前に初演された作品なので、その間に考えが変わったのだろうか。

 そういう思いでいたのだが、いざ舞台を観てみると納得した。まず演出。実は初演、再演は直井研二氏の演出であったのだが、今回は青島さん自身の演出になっているのである。その途端に、なんと舞台設定が古代ギリシアに読み替えしているのである。(古代ギリシアといっても、予算限定の地方オペラなので、主に衣装や動作で表現するしかないのだけど。)台本も作曲も自分で作ったオペラを、自ら舞台設定を変えて演出するなんて聞いたことがないが、結構新鮮な考えである。実は、青島さんは最初から地域限定オペラになってしまうのは避けるように、登場人物の名前もベタベタの日本名にしなかったり、印旛沼由来の題材でありながら、台本に地名はいっさい出さなかったりと、工夫をしているのである。自治体がカネを出して作曲、上演するからには行政側の意向をくまなければいけないのだが、そういう条件下でも自らの考えは含めておこうと努力するあたりに、芸術家としての妥協と譲れない点がうかがわれて、興味深い。

 上演は、小さな音楽専用ホールなので演奏面での不満はなかったし、地方オペラ特有の、舞台上の友人知人をさがす声が全く聞こえてこなかったのも良かった。もっとも、4回も公演するため、客の入りが良くなかったためかもしれない。

 以前の教育テレビでのひょうきんな話しぶりが印象に残っている自称ブルーアイランドこと青島広志氏の作品がどんなものかというのが、第一の目的で出かけたこの公演。台本も作曲もこなした作品を、指揮も演出も自ら行い、指揮台登場では客席を笑わせ、指揮とカーテンコールで衣装を変え、あげくの果てにロビーで机を出してCD販売までこなしていて、まさにブルーアイランドワールドを作り上げていたのには、さすがにパフォーマンス過多であった。

(2004年11月6日 佐倉市民音楽ホール)

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