ワルシャワ室内歌劇場「フィガロの結婚」

 あらかじめ予想していたことだが、「室内歌劇場」というのに、オーチャードホールでやること自体、無理しているのである。無理を承知で大きなホールを使うのは採算を合わすためだろうから、観る方だってそれを承知でチケットを買わなければならない。

 承知していると、つまり音量面での迫力を期待しないでいると、そんなに悪くもない舞台であることが見えてくる。むしろ舞台としてはおもしろい。その証拠に、客席からの笑いが多いのである。それも結構素直な笑いがである。比較的客層レベルの高いと思われているオーチャードホールで、ひねた笑いではなく、素直な笑いがこれほど多いのも無気味なくらいである。地方の市民会館で「フィガロ」を上演しているような笑いなのである。もしかしたら、これはワルシャワ市民オペラなのかもしれない、と思えてきた。

 第4幕もカットなしの上演だが、指揮のテンポが早くて、とても感じがよく、音楽の作りからも全体感として楽しませるように仕上げている。ちょっと伯爵の声がこもり気味で豪快さがないが、逆にスザンナなんかとってもきれいな声だし、マルチェリーナも若々しいかわいい声でびっくりさせられる。妙に抜き出ている歌手もいないので、全員のレベルがそろっていて、全体のまとまりがある。そのまとまりがテンポよく進むところがいい。演技もこなれている。

 セットは雰囲気を損なわない最低限のもの。舞台前の足もとのライトが、昔っぽく素朴さを醸し出していたが、故意か無意識かは不明。窓やドア外からの光の投入も、洗練された美しさより、暖かい影が見られ、ふと東ヨーロッパを感じさせてくれる。やっぱり自分はワルシャワ市民オペラを観に来ているのではないだろうか。

 もう一度オーチャードホールで観ようとは思わないが、できることなら本拠のワルシャワの小さな劇場で観てみたい、と思わせる公演であった。

(2004年12月19日 オーチャードホール)

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