藤原歌劇団「ラ・チェネレントラ」
シンデレラは心の優しい娘だな、と素直に感動できた。
アンジェリーナは黒い質素な服に黒ぶちのメガネで登場。(虐げられているというより、冴えない末っ子の娘という感じである。)ドン・ラミーロやダンディーニはバイクや自動車に乗って登場する。こういう風に舞台の様子を描写すると、いまどきの現代設定の演出かと思えるけど、むしろ全体的な印象はオーソドックスな演出のようにさえ感じられる。
そんなに「チェネレントラ」の舞台を知っているわけではないのだが、これほどロマンティックな舞台ははじめてである。シンデレラの物語そのものの感動が伝わる。童話の持つ教訓も感じられる。もしかしたら、ロッシーニの「チェネレントラ」にはシンデレラ・ストーリーのロマンはそれほど織り込まれていないのかもしれないが、もしそうだとすると、そこにシンデレラを感じさせること自体が新鮮な演出だということにもなる。そのために作品本来の舞台設定を排して、その当時には存在しない小道具を持ってくることは、演出の方向自体が奇抜でないために、素直に当然のものとして受け入れられる。
王子はアンジェリーナの外見の美しさではなく、内面の美しさに惹かれていることが、舞台を観ていてよく分かるのだ。家の中での黒ぶちメガネの姿からドレスのお姫様への変身も感動的だが、用意された高い玉座へ登りかけるも、姉たちのところへ降りてきたりして、決して最後まで玉座へ登らないところなんか、アンジェリーナの美しさを際立たせている。舞台の進行から、つくづくシンデレラとは優しい心の持ち主なんだな、と感心してしまった。私の感じ方が、もしかすると演出の意図とは違うのかもしれないが、この際感動してしまえば、それは自分のものなのである。思わず涙が浮かんだが、周囲はなぜか同年代のひとりで来ている男ばかり、隣りも泣いているか気にはなるが、それよりもここはマニアックなふりをしてオペラグラスで指揮者をのぞいたりして涙をこらえた。
イタリアの芸達者二人をダンディーニとドン・マニフィコに据えて、南北アメリカの若手にアンジェリーナとドン・ラミーロを配するキャスティングも的を得ていて、観ていても聴いていても存分に楽しめる。また、アルベルト・ゼッダの指揮も、とても舞台になじんでいるのかロッシーニになじんでいるのか、ピットの出来を気にさせることなく舞台に集中させてくれた。シンフォニックな伴奏が必要なオペラではないので、これも的を得た指揮者を配したといえるであろう。
(2005年2月12日 オーチャードホール)
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