新宿区民オペラ「イル・トロヴァトーレ」

 正直なところで言うと、今回の新宿区民オペラを観に行こうと思った最大の要因は、指揮が神田慶一の「トロヴァトーレ」だという点である。

 新宿区民オペラは過去に3回ほど観たことがあるのだが、ここのところ意外にオケが良いように感じてきていた。市民オペラ(区民オペラ)は、合唱が主体であったり、地元のキャストの発表の場であったりすることが多く、伴奏は手薄になることがよくある。それはそういうものだと、聴く側もある程度受け入れなくてはならない面もある。逆にオケまでしっかりしている市民オペラは、キャストも演出もしっかりしているとみてよく、そういうところは東西にいくつかのところしかない。しかし新宿の場合は、決してすべてに満足のいくオペラとは言いがたいのだが、なぜかオケは悪くない。もちろんキャストだって、それなりに納得できるレベルで揃えているのだが、伴奏がおろそかになりそうな雰囲気の割には、そこがしっかりしているのだ。

 私は神田慶一は、随分以前から青いサカナ団でのプッチーニなどの指揮を聴いていたのだが、しばらくは作曲者としての創作を楽しみにしていた。指揮の良し悪しは、自分の手中にあるオケを指揮しているがために良く響くのだろうと思っていた。それが、新国立劇場での「外套」あたりから、オペラ指揮者としてもおもしろい人ではないだろうか、と思えてきた。今年になってからも「おさん」「トリスタンとイゾルデ」などとジャンル(オペラの範疇の中ではあるが)を問わず、作品に合った指揮を聴かせてくれている。その神田さんが、ごてごてのヴェルディである「トロヴァトーレ」を、市民オペラといってもオケは期待できる新宿で振るというのだから、私個人的に他の要素を差し置いても聴きに行きたくなってきたのである。

 全席自由席をいいことに、前列の少し斜め、指揮者がよく観察できるところに場所をとって舞台を観た。(というか指揮を聴いた。)今まで私が舞台で聴いたことのある「トロヴァトーレ」は、ちょっとパンチが弱くてこの作品の音楽に期待する快楽からは欲求不満になることがなぜか多かったのだが、今回はさすがに満足できる音楽を作ってくれていた。そういうときは、指揮を見ているだけで楽しい。オケもこれまで以上によく鳴っていたように思う。もちろん細かなことを言えば、プロのオケではないので仕方のないところもあるが、それでも十分に楽しめた。

 演出は、暗くて変化のない舞台装置の中でも、わかりやすく説明的な動作に徹していて、一般客レベルでそれほど馴染みのない作品としては妥当な施し方であった。キャストも妥当なところ。見た目を言えば、マンリーコがひょろっとしていてインチキくさい風貌で、吟遊詩人というより吟遊手品師といった感じだったのが気になった。これなら私がレオノーラだったらルーナ伯爵の方を選んでいただろう。

(2005年9月3日 新宿文化センター)

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