新国立劇場「ホフマン物語」

 2年前の初演時に比べ、断然舞台が良くなっている。その差はキャスティングによるところが大きいとは思うが、まずは前回と同じである阪哲朗の指揮の違いが感じられる。2年前の時の感想では正直に書かなかったのであるが、阪さんの指揮はなんだか期待したほどの盛り上がりが感じられず、その翌週に聴いたベートーヴェンのシンフォニーの方がよほど感動的に演奏していた記憶がある。そういうわけで、今回は指揮に関しては期待していなかったのだが、期待していなかったためか、前回とは違って全く違和感のない音楽を鳴らしているように感じた。オケに適度の厚みを持たせて、この作品の雰囲気を良く出している。できれば目を閉じてオケだけでも聴いていたくなるほどであった。

 そしてキャスティングについても、前回2年前の感想では正直に言えなかったのであるが、全体にミス・キャストの感じが拭えなかった。(幸田浩子のオランピアのように部分的には良かったのだが。)それが、今回は端役に至るまで役とキャストがよく合っていた。多分初めてその歌声を聴く吉原圭子のオランピアは、いきなり劇場全体を唸らせるほどの技巧で、大いに驚かせて大喝采であった。次の砂川涼子のアントニアも不幸な可憐さが前面に出ている容姿で、当然歌も良く、目が離せなかった。森田雅美のジュリエッタも、難なくきっちりおさまっている。ホフマンを歌ったクラウス・フロリアン・フォークトは、まだ若く、この劇場がよく起用するハズレ外国人歌手ではないだろうかと不安であったが、意外にも大きくてきれいな声でアタリであった。ただ、あまりに透んだ声なのでプロローグやエピローグの場面では、ちょっと若すぎる感じもして、修羅場をのり越えてきた詩人ホフマンの壮絶感は表現できていなかった。でも他の役での今後が大いに楽しみな感じである。リンドルフ他の役を歌ったジェイムズ・モリスも、過去にはヴォータンでしか観たことがないので、目玉男コッペリウスなんかを軽く貫禄十分にこなす様は聴き応えがある。それ以外の脇役もしっかりしていて、シュレーミルの泉良平などもその場面を安定したものに固めていた。

 フィリップ・アルローの演出も、あらためて接するとその美しさに圧倒する。「アンドレア・シェニエ」同様に相変わらず、この演出家のコンセプトと実際の舞台との相関関係はよく分からないが、そんなことを気にせずに、舞台上の美しさ(特に照明)だけに見とれているだけでも十分感動できる。

 この劇場の再演作品の場合、時折手を抜いたようなハズし方をするが、今回の「ホフマン物語」についていえば、珍しく再演の方が良く仕上がっていた。再々演を期待してしまう。

(2005年11月29日 新国立劇場)

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