日生劇場「リンドバークの飛行」「七つの大罪」

 著作権の問題はオペラの上演の際にあまり話題にならないが、実際にはある。私は法律に疎いが、確か作者の死後50年まで著作権は残っているはずだ。そうすると結構著作権の切れていない作曲家がたくさんいる。R.シュトラウスもその一人で、「ばらの騎士」の公演プログラムには著作権料が高いという愚痴も載っていた。

 今回、ブレヒト&ヴァイルの2作品をそれぞれ違う演出家が上演したのだが、「リンドバークの飛行」を演出した岩淵達治さんによると、ブレヒトの著作権とヴァイルの著作権がそれぞれ別にあり、双方から上演方法についていろいろクレームがつき、思うどおりの演出ができないと嘆いていた。挙句にこれでは演奏会形式が一番良いとまで書いていたが、そういった制限のあるなか、なかなかおもしろい舞台を作っていた。

 ラジオ・カンタータ「リンドバークの飛行」は、リンドバークが初の大西洋横断単独飛行を霧や眠気と闘いながら成功させるお話。それ以上に何とも言えないが、その裏には飛行に失敗し墜落した飛行士たちへの鎮魂、ナチスへ傾倒したリンドバークへの批判、科学技術の誤った利用への警鐘などといったメッセージも読み取れる。演出もコクピットだけを置き、霧や吹雪などの場面では簡単で効果的な表現でとてもわかりやすくできていた。全曲が終わった後、スクリーンにロケット打ち上げ失敗の映像を投影して締め括っていたが、アイデアには納得したが、映像が良くなかったのかもうひとつ効果が薄かったのはちょっと残念。

 次のバレエ・オペラ「七つの大罪」は、作品そのものの密度も高く、とてもおもしろかった。この作品での七つの大罪とは、資本主義社会で金儲けするには怠惰や怒り、大食などをしてはいけないという、最終目的が逆転した七つの大罪であって、それをアンナという一人の女性の(資本主義社会での)成功を通じて描いてみせる。アンナは二人一役でバレリーナが演じる人間的なアンナUが大罪を犯しそうになると、歌手が演じる理性的なアンナTが押しとどめる。もちろん、背後に資本主義社会への批判があることは、言葉に現れなくても音楽でわかる。

 アンナTはミルバが歌ったが、彼女のために作曲された音楽ではないかと思うほど、歌もイメージも合っていてすばらしかった。こういった作品なら堂々とスピーカーを使われても何とも思わないから不思議だ。井田邦明の演出もわかりやすかったが、ミルバが歌えばどんな演出でも大丈夫だったように思う。

 オペラというカテゴリーからすれば境界線上にある作品だから、ふつうのオペラ・カンパニーで取り上げるには勇気がいるかもしれないが、もっとこういった作品を紹介してもらいたい。

(11月21日日生劇場)

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