ソフィア国立歌劇場「オテロ」

 正直なところ期待していなかった。それどころか、つまらなかったらどうしよう、というおそれも持っていた。欧州の南東地域からくる国立オペラは、過去におもしろいと感じたことがなかったからだ。まあ、それでもハンガリーぐらいならまだオペラ鑑賞としての不満はなかったが、ルーマニアに至っては歌も単調で、それ以上に演技が学芸会風であったため、結構おもしろくなかった。今回は、その隣国ブルガリアである。ではなぜチケットを買ったのかというと、久しぶりにロストをみてみたい、という気持ちだけだったかもしれない。

 そういう気持ちで行ったからかもしれないけれど、音楽的には意外に満足できた。オケがきっちり響いているので、それだけでも音楽を聴いている満足感は出る。細かいことをいえば、小さい音での感情は若干欠けるが、大音量でたたみかける時は迫力十分で音色も良い。また、合唱も全然悪くない。

 もちろんキャストは普段のこの劇場とは違うので、良くても悪くても劇場のせいにはできないのだけど、そうでない脇役もしっかりと歌・演技ともに固めている。当然、目当てのアンドレア・ロストのデズデモーナも十分楽しめたし、ウラディーミル・ガルージンのオテロもバリトンのように声が太く、この役の感じを良く出していた。またマウロ・アウグスティーニのイアーゴも(かつらが古臭かったが)この二人に十分対抗できていて、全く遜色なかった。

 こういう音楽面での満足は、久しぶりに聴いたジョルジョ・クローチの指揮によるところが大きいのであろうか、それともこの劇場のレベルなのだろうか、あるいはその両方なのかは俄かには分からない。

 演出もキャストの動きについては正攻法で分かりやすく、ドラマの持っている感動は確実につかんでいた。オテロの顔はちゃんと茶色く塗っているし、なんのひねりもないが、「オテロ」が初めてという人でも、それ以上にオペラが初めてという人でも分かりやすい舞台である。

(2005年12月10日 東京文化会館)

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