新国立劇場「魔笛」

 今年はモーツァルトの上演が多くなる中で、今回の新国立劇場の「魔笛」は特段何かに惹かれるといった要素のないものである。指揮、演出、キャストの何かが、他の「魔笛」の公演に比べ差別化が図られている様子はない。ミヒャエル・ハンペの演出も、再演であるから今さらポイントとなるものでもない。むしろ(私が思うところ)指揮が不安材料でさえある。そういう状況であるためかどうなのかはわからないが、新国立劇場のほかの演目よりも料金を安く設定してあって、その効果あってか客の入りは悪くはなかった。(もっとも料金が安くなっているのはランクの高い席であって、私のような最低ランクの料金にはその恩恵はないのだが。)

 ハンペの演出は、キャストの歌を引き立たせる80年代の良き演出といった雰囲気のもので、98年の初演時でさえ、かなり基本に忠実な舞台づくりに感じたものである。それが今となっては市民オペラでもお目にかかれないような珍しさはあるが、かえって新鮮さを感じる、ということにはやはりならない。時には、こういう基本的な演目を基本的な演出である程度の演奏水準で鑑賞してみるのもおもしろいものだ、と感じる程度である。とはいえ、「魔笛」を観慣れていれば、こういうオーソドックスな演出では驚いたり笑ったりできないはずなのに、今回の公演でもツボの箇所ではそれなりに客席の笑いを誘っていたから、こういう公演にもまだ意義があるのだろう。

 それに、ちょっと不安だった服部譲二の指揮も、予想外にメリハリのある音楽作りで、モーツァルトのはつらつとした側面が良く表現されていた。他のモーツァルト・オペラの指揮も聴いてみたくなってきたほどだ。キャストは、特別際立って聴かせる人はいなかったが、全体としての演奏レベルを保つには十分なキャスティングであった。(ドイツ語の台詞の出来具合までは、私には判らないが。)男声陣に外国人勢が3人入っていたが、見た目は別として、それほど日本人のキャストとの差も感じられなかった。個人的には砂川涼子のパミーナが目的であったが、浮ついたところのないしっかりしたパミーナを楽しむことができた。

 料金が低く設定されている割には、そして基本的な舞台であるにもかかわらず、意外にも子供や若年層の客が少なかった。80年代の良きオペラ演出の、回顧趣味が目的の人たちばかりとも思えないのだが。

(2006年1月28日 新国立劇場)

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