モーツァルト劇場「アポロンとヒュアキントス」

 モーツァルト11歳の時のオペラであることを覚悟して公演に出かけた。別に11歳という年齢自体は、モーツァルトにあっては何も気にならないし、音楽のおもしろさは十分に期待できる。では何を覚悟していたのかというと、11歳の時点ではまだ形式的にバロックオペラの枠内ではないだろうか、ということである。私はオペラ全般が好きだが、比較的新しい時代の作品が好きで、逆にバロックオペラは好きではない。(バロック音楽は好き。)あの長い単純なアリアの連続がつらい。ストーリーも単純。もしかしたらモーツァルトといえども、まだまだバロックオペラから抜け出していない作品かもしれない、という形式上の懸念があって、覚悟をしていた。(それならチケットを買わなければいいだけのことなのだが。)

 案の定、ダカーポアリアの連続するオペラであった。たった9曲に序曲を加えただけなのだが、一曲がやたら長いので上演に1時間半も要する。おそらく観客の半分近くはつらい時間を過ごしていたのではないだろうか。あまりのアリアの長さに、やっと終わったと思って客席が拍手を始めると、まだたっぷり2番が残っていた、なんてことが数回あった。

 とはいえ音楽はまぎれもなくモーツァルトであって、その心地よい音楽の楽しさがあるから、あくびをかみ殺さずにすんだのかもしれない。

 また、演出が簡潔で分かりやすかったのも良かった。室内楽専用ホールの小さなステージにオケまで乗せているのだから、実際演技をするスペースは限られるのだが、幕ごとに暗転して舞台転換もきっちり行って、作品の単調さを補っていた。また助演者の処置もわざとらしさがなく効果的。最後にヒュアキントスが神々の仲間に入り、その墓にヒヤシンスの花が咲くところなんかは感動すらしてしまった。キャストも技術をきっちり使って、少ない(そして長い)自分の役の歌を大切にしている感じ。

 結果として、なかなかいい公演であった。何度も観てみたいとは思わないが、一度観ておいて良かった、と思えた。実は二日酔いで頭が痛かったのだが、ちゃんと行って良かった。

(2006年7月1日 浜離宮朝日ホール)

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