東京二期会「蝶々夫人」

 二期会の栗山昌良演出での「蝶々夫人」となれば、目新しさを期待するものは何も無いように思えてくる。しかも、東京二期会の歌手たちの良さも大方想像できる。悪いところの無い、ふつうに感動できる公演になるだろうと思う。

 その程度の期待感では、乏しい家計状況の中、チケット購入は見送りになりそうなのだが、指揮のオレグ・カエターニが気になる。指揮者に目新しさを期待して、チケットを購入することにしたのである。

 ところがまもなく、カエターニが病気で来日不可能ということで、代役にロベルト・リッツィ・ブリニョーリが指揮をするという情報が入ってきた。せっかくカエターニに期待していたのに残念である。しかもブリニョーリといえば、今年2月の「ボエーム」で、なかなか良さそうな指揮なのに東京フィルがついてこれていないように感じられた記憶がある。そして今回もプッチーニで東京フィルである。期待はしぼんだが、ブリニョーリと東京フィルの相性が良化しているのかどうかという楽しみが新たに出てきた。

 ところが更にである。公演当日になって、ブリニョーリが急性尿管結石とかの激痛に襲われ緊急入院したため、突然出られなくなってしまった。(前日の公演までは大丈夫だったようだ。)代役の代役は東京二期会の副指揮の小ア雅弘さん。これまた残念なことになったが、新たに全く未知の期待も出てきた。

 多分、大舞台での指揮はそんなに経験はないのだろうと思われるが、そういった雰囲気は登場の様子からもうかがわれる。出だしの指揮ぶりはさすがに定型的な音楽の進め方。それがかえってキャストが自由に歌っているようにも感じられる。だが次第に指揮にノリが出てきて、なかなか大味のする「蝶々夫人」になってきて、結構いけるかもと感じられてきた。

 最後までこのままの指揮でいいとさえ思ってきたが、ブリニョーリが無理して病院から抜け出してきた。そして2幕からはブリニョーリが指揮。まだ痛いらしい。でも、病気だと言われても分からないくらい動きが軽やかで自在で、さすがにそのあたりはプロである。時々イスから立ち上がってオケをなめるように指揮することもあり、元気もよい。今回は切れ味の良い指揮に東京フィルもついてこれていて、ブリニョーリの本来の良さもよく分かった。

 本来は途中で指揮者が交代するなんてことは好きではないのだが、何度も観て慣れている栗山昌良の「蝶々夫人」であったために、ひとつの作品としての統一感が損なわれても惜しい気はしてこなくて、逆に1回のチケットで2種類の「蝶々夫人」の音楽を聴けたようなものである。乏しい家計状況の中、ちょっと得した気分になった。

(2006年7月17日 東京文化会館)

戻る