ドレスデン国立歌劇場「タンホイザー」

もともと私は、シンフォニーからオペラに入り込んでいったので、本当のところはオペラ公演だけでなく、オーケストラのコンサートにも通いたいのだが、財力や環境でなかなかそういうわけにもいかず、そうとなれば、どうしてもオペラ偏重になってしまっているのが現状である。それでもごくたまに、日本のプロ・オケの定期演奏会には足を運んで聴いているが、できることなら外来オケも聴いてみたいと、常日頃思っている。それも一流オケを一流指揮者で。でもそれは料金も張る。同じ出すならオペラに。そういう思考循環で、私は決して一流の外来オケは聴くことができないでいるのである。でも、何年か前のフランス国立放送フィルがピットに入った「カルメン」(藤原歌劇団公演)のようなことでもあれば、オペラを観ながら外来オケの音を堪能できるのだが。

シュターツカペレ・ドレスデンは、一度は聴いてみたいオケであった。ずいぶん昔、私が学生の頃からよく来日していているし、人気も高いオケでもあるのでずっと気になっていたのだが、気になるだけで手は出せなかった。ところが、そのオケがオペラで来てくれることとなった途端に、すんなりと手が出てしまった。もっとも、本来は劇場付の楽団なので、このようなオペラでの公演が正しい形での来日なのかもしれないが、ドレスデンの場合はオケの認知度が高いので、一流オーケストラを聴きに行くという感が強い。

演目は「タンホイザー」。この日は準・メルクルの指揮の初日であったが、この前の2回の公演は別の指揮者が振っていて、新聞やネットでの評は少々不安定さがみられるという感想が多かった。だから少し心配していたのだが、メルクルの指揮は、序曲からとても深く響いて、やはり日本のオケの伴奏では絶対に感じられないと思わせられるような演奏を最初から聴かせてくれた。上階の席で聴いていたので、ピットからの音が直接響き、時折、舞台上の歌手の声よりも伴奏の方が豊かに響いてくることもあった。指揮は大きくて、たとえばハープの独奏でも、丁寧に適格な振りで聴かせてくれた。

指揮とオケに聴き込んでしまうが、キャストもあらためて列挙するまでもなく充実していた。意外であったのが、エリーザベトのカミッラ・ニールンドが、新国立劇場での元帥夫人の成熟した婦人のイメージとは違った、心の強い姫の雰囲気を演じきっていたことであった。この日のキャストの中では一番良かった。

演出はコンヴィチュニーだったが、いまひとつ現代的な訴えが弱かった。しかし、ふつうに「タンホイザー」として観れば、多少の改変も含めて、作品本来の感動的なフィナーレに仕上がっていた。コンヴィチュニーという先入観がなければ、音楽を妨げない、おとなしい舞台であったのは、良かったのか残念だったのか。

2007年11月17日 東京文化会館)

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