東京二期会「天国と地獄」

結構有名な作品なのに、意外と公演頻度が少なくて、ここ最近の日本では、同じオッフェンバックでも「ホフマン物語」より舞台を観るチャンスが少なくなっているような印象さえある。(これは印象であって、実際は「天国と地獄」の方が公演回数は多いが。)そもそもオペレッタといえば、ウィーン、ハンガリー系ばかりで、パリのオペレッタは、オッフェンバックに限らず、あまり上演されていない。日本では、風刺が題材のオッフェンバックよりも、人生の機微が題材のレハールの方が、観客のウケがいいということなのだろうか。東京二期会においても、伝説的になっている1981、83年のなかにし礼演出以来らしく(当然、私はその当時のことは知らない)、ずいぶんと久しぶりということになる。

今回(佐藤信演出)は、簡素な舞台づくりで、現代的にはごく普通な展開であった。ひと昔のようなごてごてした感じもなければ、跳躍しすぎて全然笑えないシリアス芝居になることもなかった。客席からは時おり弱い笑いが起きる程度の、おとなしめな喜劇である。カンカンも熱狂的に盛り上がらず(これはいい意味での感想)、上品である。ただ、時事性のネタのセリフがないことは、上演にスマートな感じを与えていい面もあるが、抱腹絶倒とはいかなくても、現代社会に対する意味ありげなものがあっても良かったのではと思う。(ただ、1幕1場の地上が日本風で、2幕1場の地獄のプルートの部屋が中国風ということに、何か意味があったのかどうかは不明。)全体的に音楽や歌をじゃましない舞台で、それはそれでいいのだが、「二期会の」という独自性からは今ひとつ押しが弱かったのではないだろうか。

阪哲郎の指揮で東京交響楽団の演奏。東響とオペレッタの組み合わせは、私自身の経験からするとあまりイメージが結びつかなかったのだが、第1幕などでは、結構フランス・オペラの音楽を出していて、東京フィルのウィンナ・オペレッタとは違う演奏が楽しめた。阪さんの指揮も、こてこてに笑わせてリラックスをさせるようなことはしないけれど、オペレッタとしての楽しさは外さないという、舞台にも合った演奏である。ただ、阪さんは、新国立劇場でも「ホフマン物語」を振っていて、またコーミッシェ・オーパーにもいたということで、オッフェンバックのようなものが得意であるかのような印象を受けるが、実際の演奏を聴く限りではベートーヴェンみたいなしっかりとしたまとまりのある作品の方が合っていると思う。(プログラムの評伝にもあったが、日本フィル定期での第7交響曲は強烈なインパクトがあって、その前週に聴いた「ホフマン物語」の印象なんか吹っ飛んでしまうほどであった。)

2007年11月25日 日生劇場)

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