東京室内歌劇場「後宮からの逃走」

どういうわけだか知らないけれど、「後宮からの逃走」は日本ではそれほど公演を鑑賞できるチャンスがない。モーツァルトのなかでも有名な作品であるし、もちろん音楽も良ければ、ストーリーも単純で分かりやすい。しかもキャストは、歌手5人にセリフのみ1人と、比較的コンパクトで、上演に困難さはないと思うのだが。最近では「イドメネオ」よりも上演頻度が少ないのでは、とも感じるほどだ。

私にしても、今回の公演は12年ぶりの鑑賞となる。結構久しぶり。だから、まず「後宮」が、演奏の質が期待できる東京室内歌劇場で上演されるというだけで、今回のチケットは躊躇なく購入した。チケット入手時点では、(東京室内歌劇場はあまり目立って宣伝しない団体だということもあるが)指揮も演出もキャストも知らなかったのである。

キャストは、コンスタンツェに津山恵。チケット購入後に知ったとはいえ、歌手で選り好みしない私としては珍しく好きな歌手なので、結果的にラッキーだった。津山さんは、イタリア・オペラには出演しないので(出演しているようだが、私は聴いたことがない。)、ドイツ、スラブ系が多く、そんなにいつも聴くことはできない。ドイツ系といっても、力で押しとおす役ではなく、もう少しおとなしめの役で、アリアドネとかイェヌーファとかアガーテとかパミーナといったような、死なないけれど笑いもしないヒロインがよく似合っている。今回のコンスタンツェも、多少声に明るさが必要なのでがんばっているという印象はあったが、こういう役柄ではよく舞台に栄える。

オスミンは、急に当日の出演者が病欠し、別の組の山口俊彦が歌った。これも、結果的には私の聴きたい歌手であったのだが、なにせ急な代役で、しかも3日連続で同じ役を歌うことになるので、最初は調子を抑えているような印象を受けたが、後半にはそんな不安は全然感じさせないような歌と演技になってきたのは、さすがである。

指揮は大勝秀也。丁寧な演奏で、モーツァルトの若さが引き立つ音楽作りをしていた。指揮台において、自らリュートを弾いていたが、これはご愛嬌どころではなく、かなり上手かった。あまり経歴を知らないが、元はこういう楽器からスタートしたのだろうか。

演出は加藤直。簡潔なセットだが、ストーリー展開に不足はなく、とても分かりやすい舞台であった。こんにゃく座や神奈川県民ホールでのオペラ演出が多いので、多少こんにゃく座チックになるところもあって、モーツァルトのオペラをまた別の角度から舞台を観てみた、という感じになった。

そして、セリムの内田伸一郎が、俳優らしく、重厚なセリフまわしで、舞台の品格を一層増していた。オペラなのに、歌ではなくセリフで感動させられてしまったほどである。

2007年12月15日 新国立劇場中劇場)

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