日本オペラ協会「美女と野獣」

私が聴いた水野修孝作曲のオペラは、新国立劇場での「天守物語」が初めての舞台であったが、その時の印象は、従来の管弦楽の鳴らし方にとらわれない、独特な感覚のオーケストレーションであった。それは、泉鏡花の原作の持っている独特の美しさを、これほど音楽で表現できることはないだろうと思うようなものだった。そういう印象を引きずって、今回の「美女と野獣」を聴いたのだが、「天守物語」の水のような音楽とは違って、はっきりとした明快な音楽であった。音楽が途切れることはなく、旧来のアリア的な美しさを持つ部分もあれば、ドラムやエレキ・ギターによるロック・ビートの部分もあり、作曲者は作品に応じて適格な音楽を作っているようである。この「美女と野獣」は1989年初演の作品で、今回は再々演ということで、そのたびにスコアの改訂を行っているようで、こういう作品そのものによる、その時々に応じた表現ができるところは、まさに現代オペラそのものの強みである。(もっとも、私は初演も再演も聴いていないので、どこがどのように加筆されたり削除されたりしているのか分からないのだが。)但し、旧弊な聴衆の中には、オペラがクラシック音楽の枠内から逸脱することに拒否感や退屈を感じることもあるようで、それは客席の反応からも感じられる。

三石精一指揮の東京ユニバーサル・フィルは、オペラに慣れているとはいえ、特徴的な音楽を舞台にあわせて難なくこなしていた。ただ、これは作曲上の問題も大きいのかもしれないが、性格の違う音楽の対比が大きく感じられ、もう少し場面間の統一が感じられる演奏ができれば、と思った。

演出は岩田達宗。作品としては再々演だが、演出は毎回変わっている。過去2回の上演は舞台写真によるセットだけしか知ることはできないが、それと比較しても、今回の演出にそう大きな解釈が加えられているような気配はない。台本の通りの設定と思われる。そもそもの台本自体が、舞台設定を戦国時代の日本にしているため、「美女と野獣」のオリジナル設定から外れているというおもしろさはあるが、次の演出あたりでは、演出にひとひねりあってもよりいいのではと思う。

2008年1月12日 新国立劇場中劇場)

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