神奈川県民ホール「ばらの騎士」

ベルリン・コーミッシェ・オーパーのプロダクションで、アンドレアス・ホモキの演出。コーミッシェ初来日の頃は、その先鋭さに感服したものだが、いまや(個別の演出としては驚きはあるとしても、)演出の方向自体に驚くことはなきなっている。

今回の舞台は、小さな真っ白の箱型の部屋で展開される。だが、それはただの抽象的な箱ではなく、ちゃんと3幕とも、それぞれの設定にあわせた部屋になっている。衣装にしても、元帥夫人はロココ風だが、それ以外は概ね20世紀前半風で、最近の舞台としてはまともなもの。白い箱型の部屋自体が、途中で少し傾く仕掛けはあるが、見た目にもそれほど奇異に映らない。(セットの中の家具など可動物を滑らないようにするなど、工夫はしているとは思うが。)

1幕では、舞台の部屋自体が真っ白なのに、そこに配置されたベッドや衝立なおどの道具や衣装も白くて、全体にインパクトが少なかった。視覚的な印象からなのか、人物の扱いも一般的で、どこかつかめばいいのかな、という感じがあった。だが2幕になると、セットの中の家具も黒色で統一されて、人物の衣装も、ファーニナル家は黒、オックスの一団は茶系と、見た目にもにぎやかになり、それに合わせて、人物の性格付けもはっきりしてきて、話も進んできた。

特に3幕の処理が良かった。オックス退場の際に叫ぶ「帰るぞ!」が、ふだんの舞台では見られる負け惜しみの虚勢がなく、本当に打ちひしがれている様子なのに驚かされる。また、三重唱のあと、若者二人は退場して舞台裏で二重唱を歌っているのを、元帥夫人ひとり舞台に残って聞いているシーンが感動的である。二人の歌を聞きながら、おもむろにロココ風のかつらと衣装を脱ぎ、普段の夫人としての姿になるのだが、そこにはひとりで旧世代を背負っていた夫人の疲れが感じられると同時に、自身の人生への着実な進歩も感じられて、結構良かった。そうなると最後のモハメッドの扱いをどうするのか興味があるところであるが、銀のばらが置き忘れになっていることに夫人が気付いて、若者たちのところへモハメッドに届けさせるシーンで終わらせていた。これは、夫人に現実感を戻すことに役立っていたし、1幕との整合もとれていて、すっきりした演出であったと思う。

キャストは、主役3人(佐々木典子、林美智子、澤畑恵美)がそれぞれ良かったのはいいとして、マリアンネ(渡辺美佐子)やファーニナル(加賀清孝)など脇もきっちり役作りがうまかった。沼尻竜典の指揮は幕が進むほどに良くなっていたが、オケ(神奈川フィル)にもう少し「ばら」のふくよかさが感じられれば、なお良かった。

2008年3月22日 神奈川県民ホール)

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