国立オペラ・カンパニー 青いサカナ団「輝きの果て」

神田慶一の新作。これまでの神田さんの作品に比べると、演奏時間が短く、終始重たい雰囲気に包まれている。(短さや重たさは、この半年前にも金沢で子供の舞台のために新作オペラを作曲している影響だろうか。)神田さんの作品は、比較的規模が大きく、重たさと軽さが入り混ざった音楽が魅力であったのだが、そういう期待からすると意外な感じがした。

また、これまでの神田作品の魅力のひとつに、ヒロイン役の創唱が誰なのか(それも歌も演技も何より容姿も役柄にピッタリな若手ソプラノの起用が多い)という楽しみもあった。その期待さえも今回は外された。今回の主役は、ベテランの田代誠。かなり重厚な創唱である。そもそも今回の作品にはヒロイン役というものは存在せず、準主役ともいえる酒場の女主人に、実力は周知の飯田みち代を配していて、こちらも重厚さが目立つ。一方で、子役にも長めの歌詞が与えられている。こういう主要キャストの構成で、しかも休憩なし全5場の短い作品であれば恋愛沙汰は一切出てこない。

では、どういう作品なのかというと、(あらすじの紹介は省略するが、)ごく端的に言うと、テロリストたちに特殊能力を備えた歌で対抗するというもの。何のことかわからないと思うが、元々、神田作品は良く分からない設定が多く、そういう意味ではいつも通りともいえる。テロリストの行動は国家間の戦争が遠ざかった現在においてはもっとも戦争に近い存在ともいえるし、それに対抗するストーリーであれば、まず表面的には反戦オペラであるといえる。ただ、そういう面からとらえると、主張は弱い。確かに、ひとりの歌が合唱となり、それがテロリストたちに銃を捨てさせることになるという、音楽の力を見せつけるシーンはあり、音楽としては聴き応えがあるのだが、芸術作品の主張としては通り一遍の感じが拭えない。

これは、表面上は反戦オペラに見えながら、その実は違うことを主張しているようである。もし抗戦が主題であれば、若いヒロインを主役に据えた方がはるかに効果的なはずである。それを、中年を通りこした渋い男を主人公にし、その主人公とは恋愛関係のまったく生じない疲れた子連れ女を副主人公にしているのである。そういう人物配置とタイトルの「輝きの果て」から考えると、作品の真実の主題は人生の結末を表現しているのではないだろうか。そういう気がしてくる。

しかし、まだ若い(作曲家として)神田さんにすれば、多分自ら選んだテーマとは思うが、深く掘り下げることができたのであろうか。現代社会に直面した問題をがっちり捉えて表現していた過去の作品に比べると、インパクトは強くない。(もちろん神田さんより若い私の受容水準の問題も大きいかもしれないが、それでも分かることは分かる。)

今回の神田作品に対してはこういう感想をもったが、作品から離れて公演としてはおもしろく十分に感動できた。田代誠や飯田みち代の落ち着いた表現は、歌も演技もとても良かった。実のところ、作曲者以上に「人生の結末」というテーマを深く掘り下げて表現していたのは、田代さんの方ではないだろうか。その姿は、堂々と動じずに、結末をしっかりと見据えているかのようで、私にはまだ到達できていない域を垣間見た気持ちになり、感動的であった。

2009年12月6日 新国立劇場小劇場)

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