東京オペラグループ「奥様女中」

 オペラ・ブッファの元祖のように評価されているペルゴレーシの「奥様女中」は、そもそもオペラ・セリアの幕間劇として成立したものであるので、上演時間が中途半端に短く、他の作品か室内楽なんかと二本立てで上演されることが多いが、今回は単独上演された。本来黙役のヴェスポーネに長めの台詞を与えて、休憩も入れて1時間半の公演だった。休憩時間にはロビーでギターの演奏会まであったが、もともと幕間に上演されていた作品がメインに上演されて、逆にその幕間に別の演奏会が行われるなんて、女中が奥様になったように幕間劇がメインになったようだ。

 そんなことはともかく、こういった小品はなによりセンスがあるかどうかで上演の質が左右されてしまう。東京オペラグループは96年から繰り返しこの作品を上演しているだけあって、よくまとまっていた。字幕なしの原語上演だったが、下男のヴェスポーネが各幕の始めに日本語の台詞で要領よく且つおもしろく状況説明をしていたので、理解不足になることはなかった。それに演技も上手いし、ペルゴレーシの音楽もわかりやすいので、字幕がなくても全然平気。大きな劇場のように力で圧倒させるのではなく、小さく品良くまとめあげる方が案外難しいように思うが、今回は「楽しい日曜の午後のひとときを過ごせた」という気分にさせてくれた。

 話は今回の公演のことから離れるが、私はこれで新国立劇場のオペラ劇場・中劇場・小劇場の全ての空間でオペラを体験したことになった。舞台機構のすばらしさ、音響の良さ、そして国立オペラハウスとしての雰囲気などではオペラ劇場の存在意義は十分にある。一方、小劇場も独特の閉ざされた小さな空間を形成しており、さいたま芸術劇場や俳優座劇場のような舞台と客席の濃密な関係が期待できる。その点、中劇場がいまひとつオペラには不向きなように思える。客席が意外に広く感じられ舞台への集中感が薄い。(この中劇場で上演された「ヴェニスに死す」は確かに感動したが。)演劇のための劇場だといってしまえばそれまでだが、今後少ない予算で観に行く公演を選ぶ時に、中劇場よりかはオペラ劇場か小劇場の公演を選んでしまいそう。

(2月7日 新国立劇場小劇場)

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