新国立劇場「リゴレット」
指揮のピエトロ・リッツォは、一昨年のシーズン開幕の「トロヴァトーレ」も指揮していたのだが、その時は、まだ若いからか硬めの丁寧な演奏で、年数を経てから再度聴いてみたいと思った記憶がある。それから2年しか経ていないので、演奏の変化についてそれほど期待はしていなかったのだが、またしてもシーズン開幕のヴェルディである。
シーズン開幕の大役として、かなり慣れた演奏になってはいたが、硬めの丁寧な演奏であることについては、やはりそれほど変化はなかった。まだ若いからなのか、この人の演奏スタイルなのか。「トロヴァトーレ」の時には、丁寧な演奏に意識的に変化をつけようとしてのことか、間をとってためをつけることが何度かあったが、今回はそういう細工は少なくなっていた。(まだあるにはあった。)全体としてしっかり楽譜通りに演奏してくれているという感じで、決して変な感じはしないのだが、でももうひとつ感情が足りないように感じてしまう。カーテンコールでは普通に喝采を受けていたから、そのように感じていたのは私だけなのだろうか。レパートリー公演であればそこそこ満足のいく演奏だと思うが、シーズン開幕公演の指揮としてはもう少し派手さがあってもいいように思う。いっそのこと、実力のある日本人の中堅指揮者でシーズン開幕してもおもしろいのではないかと思う。
キャストは、リゴレット(マルコ・ヴラトーニャ)、ジルダ(エレナ・ゴルシュノヴァ)、公爵(ウーキュン・キム)ともに聴かせどころはきっちりおさえていて、ヴェルディのオペラとしては満足。
演出はアンドレアス・クリーゲンブルク。設定は現代の(多分イタリアの)ホテル。ホテルの形は、大阪駅前のマルビルのような円筒形の高層ビル。それはいいのだが、直近の新国立劇場での「ナブッコ」のショッピングセンター、あるいは「コジ」のキャンプ場に比べて、舞台セットの細部にリアル感が乏しい。新国立劇場の現代的なきれいな舞台セットに目が慣れてしまっているのかもしれない。もっともこういうことは美術的なことであって、演出そのもののことではないのだが、舞台の見た目の話をもう少しすると、1幕と2幕が全く同じホテル内部の廊下(3階まである)とバーのセットで変化が一切なく、3幕になって唐突に舞台転換してホテル屋上になっていた。いろいろ制作上の制約があったのかもしれないが、1幕1場と2幕が同じ舞台なのはいいとして、1幕2場も同じ舞台であったのは、リゴレットとジルダの境遇がぼやけてしまっているように感じた。演出では二人がビルの屋上に仮住まいしているような設定かもしれないが、父娘の会話がホテル1階では、裕福なホテル住まいをしているように見えてしまう。それならそれで最後の3幕まで同じセットで通してしまった方が、全幕の統一感としてはすっきりするように思えるのだが。(もっとも、ビル屋上の電光広告塔の下での殺人は、眼下の都会の夜景も見えて、それなりにきれいではあった。)人物の扱いとしては、公爵の取り巻きやスパラフチーレなどは現代にも通じる役回りなので、この演出の設定にすっきりとおさまっておもしろくなっているのだが、リゴレットとジルダを現代の設定に合わすのは簡単ではなく、ほかの人物に比べて浮いてしまう。そのあたりは演出の工夫のしどころだと思う。
(2013年10月6日 新国立劇場)