新国立劇場「カルメン」

客席の反応は、まず指揮(アイナルス・ルビキス)に対して好意的な喝采が多かった。キャストについても、ホセ(ガストン・リベロ)、エスカミーリョ(ドミトリー・ウリアノフ)に対してブラボーが連発し、ミカエラ(浜田理恵)もブラボーが出た。こういった反応の中、カルメン(ケテワン・ケモクリーゼ)に対してはブラボーが全く出なかった。とはいっても、拍手が小さくなるとか、ブーイングが出るとかいうこともなく、客席全体に「悪くはないが、物足りない」という雰囲気が漂った。カルメン役での舞台が初めてらしく、「これからに期待しよう」というところなのか。

私も、カルメンが1幕で登場した時に、ほかのキャストに比べて若干の声量の弱さを感じたのだが、ホセが始まりからかなり豊かに歌っていたこともあり、それとの対比でのことかなという程度にしか気にならなかった。それに心なしか、指揮者がカルメンの声量に合わせてオケの音量を巧妙に調整しているようにも感じられ、舞台を鑑賞するには何の不満のない演奏であったと思う。

それどころか、ケモクリーゼのカルメンは演技もよく動いていたし、容姿もかわいい感じがして悪くはない。まだ若さあり(そこがカルメンとしての魅力に欠けると見た人も多いのだろうが)、ホセが惹かれるのも自然に見える。ホセやエスカミーリョも演技、容姿が良かったために、私としては、久しぶりに初心者に戻ったような気持ちで「カルメン」の物語に浸ることができたほどで、その中心を担うカルメンにも大満足していた。個人的にはブラボーを出してもいいほどだと思ったのだが、もしそうすると、客席全体の評価に反するような行為になったかもしれない。

一方で指揮者への大きな喝采は、私としては不思議であった。クセが全く気にならないオーソドックスな演奏をしっかり聴かせてくれる。そのおかげで、何のストレスもなく舞台に集中できる。先にも触れたが、カルメンの声量に合わせるようなコントロールもうまい。だから、満足できる指揮なのであるが、それを超えて喝采(それもキャスト以上の喝采)を贈るような特徴までは感じられなかった。まだ若いし、それこそ今後が楽しみ、という面があるように思えたのだが。

演出は鵜山仁の再演。確か3度目の上演。可もなく不可もない舞台であるので、さらに再演を重ねるには、指揮者やキャストで客を呼び込む必要が出てくるように思える。

(2014年1月19日 新国立劇場)

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