東京二期会「ドン・カルロ」
デイヴィッド・マクヴィカーの演出が今回の公演を特徴づける要素になるのだろうという予想を持っていたが、実際にはガブリエーレ・フェッロの指揮が前面に出ていた公演であったように感じた。
フェッロの指揮は一音一音、音符を丁寧に演奏している感じで、とてもいい指揮だと思うのだが、肝心なところであまり盛り上げない。しっかりした演奏なので、ヴェルディの音楽作りの重層構造がよく分かっておもしろい。東京都交響楽団の音質とも合っていて、少し乾いた感じもする。飽きがこない演奏で、5幕版の長い演奏であるにもかかわらず、最初から最後までじっくり聴きとおすことができた。でも一方で、音楽の重層構造なんかごっちゃまぜになって躍動したり暗く沈んだりするのがヴェルディのオペラであって、そういう盛り上がりには欠ける演奏であった。なんだかほめているのかけなしているのか分からなくなってきたが、一般的なヴェルディの演奏からすると、ここで盛り上げて畳みかけて、というところを技巧的にまとめ上げてしまっているので、多少物足りなさを感じるところもあり、事実、まわりの客席からも退屈気味な雰囲気が伝わってくる。とはいえ、こういう演奏があってもいいとも思う。
マクヴィカーの演出はオーソドックスな舞台になっていた。セットは、石積み風の柱や台を場面ごとに上下させて変化させるだけの抽象的なものであり(全面石積み風なので、全体的に白灰色であり、カトリック風には感じられないが、白亜のスペインに通じる感じはある)、場面ごとの具体性は特段感じられなかった。しかし、人物の動きや、重厚で時代考証的な衣裳からは、作品に忠実な舞台づくりであるといえる。分かりやすい演出ともいえ、それだけ演出に気をとらわれず演奏に集中できるようにもなっていた。もっとも、最後のシーンでは、カルロは宗教裁判長の差し向けた衛兵によって刺殺されるようになっており、オリジナルでの亡霊に引きずりこまれて行方知らずになるという理解不能な幕切れは回避する演出をとっていた。これは理解可能で、妥当な処置だと思う。
キャストは、二期会なので全体的なレベルは維持しているのだが、「ドン・カルロ」らしい風格のある重厚感には乏しいように感じられた。もしかしたら指揮者の演奏のためかもしれないし、あるいは比較的若手の起用が多かったためかもしれない。
最後になってしまったが、今回の公演はイタリア語の5幕版であった。やはり、座席への拘束時間が半時間ほど長くなっても、フォンテンブローの森の場面はあった方が私は好きだし、その方がドラマの理解からも良いと思う。2幕以降のカルロとエリザベッタの苦悩がより身に染みて感じることができる。
(2014年2月23日 東京文化会館)