新国立劇場「罪と罰」

 新国立劇場で初演を迎える作品は、團さんの「建」につづき原さんの「罪と罰」で2作目になるが、どちらの作品にしてもかなり大がかりな作品になっている。オーケストラの大きさ、登場人物の多さ、上演時間、ストーリーなど。もちろん両作品とも新国立劇場での上演を念頭に置いて書かれたものだから、他の劇場や団体からの依頼に比べ制約も少なく、作曲者の書きたいように書けた作品なのかもしれない。ただ、それは反面、国内の他の劇場や団体での上演を困難にするかもしれない。これまでの團さんや原さんの作品はいくつかの街で再演される作品が少なくないが、それだけ上演しやすいし鑑賞しやすいからだと思う。芸術作品としての本質的な部分を現実的な諸問題に迎合させてしまうのは意味のないものになってしまうが、再現芸術は美術作品のように一度作ってしまえば形が残るものではないのだから、芸術的完成度が高くても再演されなければ顧みられなくなってしまうおそれがある。もっとも、ヴェルディやワーグナーだって自作が他の劇場で再演されるにあたって手直しすることはあったのだから、「建」や「罪と罰」も改訂版を作ってでも新国立劇場から離れて各地で上演されるべきすばらしい作品だと思う。

 今回の公演は福井敬、鮫島有美子のキャストで話題だったが、私が観た日は星洋二、大島洋子の組。でも二人とも調子が良く、オーケストラの大音響にも全然負けないほどよく響いていた。(ちなみにオーケストラピットの上に黒い紗幕が張られていて、譜面台の明かりで暗い舞台が見えにくくなるのを抑えていた。)その他も端役に至るまで、さすが新国立劇場の本公演と感心させられるほど充実していた。ただ、日本語公演ではいつも歌詞の聞き取りやすい人とそうでない人の格差が気になってしまう。音楽的な満足とは別なのだが、よく聞き取れない歌詞は会話の流れから意味を理解しようとするので、その分だけ頭が音楽から離れてしまう。(そのためか、字幕付きだった。)

 演出は加藤直。こういうストーリーの演出はとても難しいと思うが、もう少しシンプルな演出の方が心理的になれるのではないかと感じた。登場人物以外の人たちの動きの多くが無駄なような気がした。

 舞台装置は3階建てのアパートの大きな装置を動かさずに使っていた。3部屋×3階建てのアパートが舞台に乗るということは、私が今住んでいる3部屋×2階建てのアパートならすっぽり新国立劇場の舞台に収まるということになる。新国立劇場の舞台の大きさと、うちのアパートの小ささを、改めて実感させられた装置だった。

(6月19日 新国立劇場)

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