新宿区民オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」「道化師」

 シーズン中の土日は数ヶ所でオペラが舞台にかけられている東京であっても、さすがに8月になるとぐっと数が少なくなって、毎年定例で本格的な舞台が上演されるのは新宿区民オペラぐらいになる。しかもこの新宿区民オペラはチケット代が安く設定されているので、他に特に予定の無い8月にあって、ついつい足を運んでしまい、自分の街のオペラでもなければ、特別話題を集める団体でもないのに、市民オペラとしてはよく観に行くところとなってしまっている。市民オペラとはいっても、各地のオペラにはそれぞれなにかしらのカラーがある。しかし新宿区民オペラは特に他と区別されうる特徴が無いと思う。なんだかオケと合唱にアマチュアっぽさが目立つ。そのレベルと「新宿区」というネームの落差が特徴といえば特徴かもしれない。しかし、毎回少しずつ上演のレベルが上がってきているようには感じていたので、今回も少しだけ期待して出かけた。

 観てみると、確かに舞台全体から感じ取られる上演レベルは上がってきていると思う。最初にこの区民オペラに出くわした「カルメン」の時に比べたら随分と良くなっている。相変わらず合唱については、他の市民オペラに比べても美しさが足りないように思う。男声合唱は特に貧弱で、区民でなくてもいいからどこかの大学の男声合唱を応援で入れてもらいたいほどだ。しかし、オーケストラは良くなっているし、舞台装置も工夫して違和感なく作られている。それにキャストの選定がとても良かった。ヴェリズモ2作品にふさわしい歌唱と演技力のある人ばかりで、思いもよらず結構緊迫した舞台が出来上がっていた。「カヴァレリア・ルスティカーナ」では普通オケ・ピットにオルガンを入れるところをホール据え付けのパイプオルガンを開帳して鳴らしていたし、「道化師」にはバレエやクラウンも入れて雰囲気を出していた。「道化師」の2幕は劇中劇の緊迫感に物足りなさを感じることが多いのだが、今回についてはキャストの演技も演出も良く、私としては十分満足できる緊迫感だった。

 毎年、回を重ねているだけあって、客層のお行儀のレベルも上演レベルと同じく上がってきているように思える。ただ今回は、なぜか隣の席のおばさんに上演中に何度も足を踏まれ、そのたびに謝られた。

(8月28日 新宿文化センター)

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