びわ湖ホール「群盗」

 日本初演というが、外国の公演評もあまり聞いたことがないから、ヴェルディの作品の中でもレアもの度の高い作品だと思う。ヴェルディの作品群で日本初演されていないものなら、「シチリア島の夕べの祈り」をはじめ「第1回十字軍のロンバルディア人たち」や「レニャーノの戦い」とかまだ有名なものが残されているのに、どうして「群盗」なのだろうと思う。もちろん私は初めて観たが、音楽は中期の作品と変わらないぐらいすばらしいものなのに、物語がいまひとつパッとしない。文学作品としては内容のありそうな話だと思うが、オペラとしてはストーリーにおもしろみがない。結末の成り行きに感動できた観客は一体どれぐらいいたのだろうかと疑問に思う。

 そういった作品を、あえて舞台にとりあげて、しかも観客に「今日はオペラを楽しんだ」という気持ちにさせるのだから、若杉弘は相当の自信があったのだと思う。実際、音楽の処理は、(前提としてヴェルディのすばらしい仕事があったとしても)若杉さんの指揮だからここまで楽しませてもらえたのだと思う。それに応える福井敬や小鉄和広などのキャストも良かったし、ホール専属の合唱団と東京オペラシンガーズの合唱も、要所要所で合唱の活躍するこの作品の出来を引き立てていた。

 舞台装置も良かった。おもしろいとはいえないストーリーなので、下手に抽象的になったりすると一層わけがわからなくなってくるし、かといって4幕9場ものシーンをそれぞれそれなりに雰囲気をもたせるには大変な費用と労力が必要だと思う。それを今回の公演は、回り舞台を駆使し、ひとつひとつの場面をきっちり作っていた。こういった装置の連続が、「オペラらしい装置」だと思えるほどで、公演の成功に大きく寄与していたと思われる。

 それにしても一体「群盗」という熟語は日本語に存在するのだろうか。このタイトルが作品への興味を半減させる要因になっているかもしれない。ヴェルディやシラーというネームヴァリューが大きいからまだましだが、そうでなかったら「群盗」というタイトルに惹かれてこの作品を観ようとはふつうは思わないのではないだろうか。そこで私はこの作品に別なすてきなタイトルを考えた。「フランケンの盗賊団」、あるいは「モール伯爵の二人の息子」。あんまり変わらないでしょうか?それとも「群盗」の方がまし?

(10月24日 びわ湖ホール)

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