N響「囚われびと」(フォーレ「レクイエム」)

 ふつう、コンサートオーケストラの公演で、前半が1幕もののオペラ、後半がレクイエムというプログラムだと、オペラの方もコンサート形式での演奏だと考えてしまう。コンサート形式でのオペラは、まだ一度も聴いたことがなく、ほとんど食わず嫌い状態になっているので、今回のN響の公演も敬遠するところであったが、よく調べると舞台形式での上演だということがわかり、それなら行ってみようという気になった。でも、後半のレクイエムはコンサート作品だし、オペラでピットに下りていたオーケストラが、レクイエムでは舞台に上がってくるなんていうことがあるのだろうかと、舞台形式はどうも半信半疑のままだった。

 当日、会場に入ってはじめてわかったが、「囚われびと」だけでなく、レクイエムの方もオペラ形式での上演でやってしまおうという公演だった。考え方としては、ダルラピッコラの「囚われびと」とフォーレのレクイエムを休憩なしに続けて上演し、全体でひとつの舞台作品として捉えようというものであった。

 「囚われびと」はフェリペU世時代のスペインが舞台。(「ドン・カルロ」のストーリーがこの作品の背景を理解する上で役に立ってしまう。)囚われびとが、希望を与えてくれる言葉をかけてくれる看守を同志と思い込み、看守が独房のドアを開けてくれて逃げたところ、その看守が実は異端宗教裁判長で、囚われびとは処刑されるという、なんとも暗すぎる話。ダルラピッコラは、題材はスペインにとっていても、時代や所を問わない「迫害」そのものをテーマに置いている。演奏もなかなか重苦しくて、もう一度聴きたいとは思えなかった。

 続くフォーレのレクイエムがなんと清らかに感じたことか。過去にコンサートで聴いた時は、静的で物足りなさも感じる作品だったのだが、今回はとても良かった。暗い作品の次とか、舞台でビジュアル化され分かりやすいとか、いろいろ理由があるが、やっぱりシャルル・デュトワの指揮がこの音楽に合っている。それに、二期会合唱団も、こんなに良かったかな、と思うぐらい美しかった。「囚われびと」では感動まではできなかったが、レクイエムではしっとりと感動できた。

 「囚われびと」なんて作品をふつうのオペラ団体が上演しても客集めに苦労すると思うのだが、NHKホールをほぼ埋めるのだから、さすがN響のブランド力だと思った。

(12月18日 NHKホール)

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