新国立劇場「ドン・ジョヴァンニ」

 二期会や市民オペラなど比較的平易な「ドン・ジョヴァンニ」を観慣れているせいか、今回の新国立劇場のプロダクションは私が今まで舞台で観た「ドン・ジョヴァンニ」のなかで一番難しく仕上がっている「ドン・ジョヴァンニ」だった。

 まず演出がもうひとつ難しく思えた。決して反感を覚えるような感じではなく、なんだかおもしろそうなのだが、舞台を観ただけではどの点に主眼が置かれているのか十分理解できなかった。全く不可解というのではなく、ちょっと難しそうといった感じで、私の理解力では賛成も反対もできない演出だった。

 演出に相応していて衣裳に重点が置かれていた。解説などでは「ヨーロッパ服飾史を俯瞰できる」とうたってあったが、そのとおりめまぐるしく衣裳が変わり、これまたそのことによって訴えたい点が(舞台の見た目だけでは)わかりずらかった。確かに衣裳だけを見ていると楽しいのだが、物語からの必然性が少し難しい。エルヴィーラなんか登場するたびに特徴的で、衣裳が歌っているように見えて歌いにくそうだった。(2幕のロンドのところのみ歌いやすそうな薄着で、ここぞとばかりにすばらしく歌ってくれた。)

 音楽的には、それぞれのキャストはとても良かったのだが、全体としては統一感がとれていなかったような感じ。タイトルロールは代役だがなかなか良くて、レポレッロはさらに良かった。高橋薫子など3人の日本勢も聴き劣りせずに良かった。それぞれの声やアリアは良かったのだが、ちょっとアンサンブルのまとまり感が弱かった。(これもアンサンブルは得意な二期会などを聴き慣れているせいか。)

 合唱も1パート4人か5人だけという少なさも不思議。そのため、1幕のフィナーレはツェルリーナとマゼット以外に農民がひとりも踊っていなかった。

 総合して、わくわくするような楽しさはないのに、なんだか上等な「ドン・ジョヴァンニ」を観せてもらったという感じの公演だった。

(1月16日 新国立劇場)

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