東京室内歌劇場「魂と肉体の劇」

 突然3週間ぐらい前になってチケットの前売を開始したので、一体どんな作品か調べる暇もなかったが、私の好きな新国立劇場の小劇場で、若杉弘の指揮、鈴木敬介の演出、キャストに青戸知、大島洋子、小鉄和広、大間知覚等々といった結構しっかりした布陣なので、まずはチケットを取った。

 新作でもないのに作品についてあまりにも無知なので、とりあえず辞典で調べてみた。すると初演は1600年2月とある。私の今までの知識では、現存する最古のオペラ作品は1600年10月初演の「エウリディーチェ」のはずである。ということは、オペラではないのか?あまりオペラ鑑賞の事前下調べをしない方なのであるが、少なくともオペラなのか違うのかをはっきりさせておかなくてはいけないと思い、資料室でオックスフォードオペラ辞典を調べてみた。そこには、最古のオラトリオという説と、舞台・衣裳と演技を必要とすることからオペラの始まりとする説が載ってあった。要は、当時の人たちにとっては「オラトリオ」というカテゴリーも「オペラ」というカテゴリーもなく、後世の人たちがどちらであるかを論じているだけのことだということがわかった。それだけわかれば、私にとってはオペラである。

 舞台はオラトリオ風に始まった。音楽は予想以上に劇的でなかなかいい。しかし、舞台としては何か物足りない。そう感じていると、第2幕になっておもしろくなり、思わず身をのりだした。登場人物の衣裳が現代日本のものになっているのだ。現世の快楽よりも天を目指すという宗教性の濃いストーリーなので、時代にとらわれない舞台設定ができる要素は元からあるのだけど、話の展開や歌詞が現代に移しても全然違和感がない。(もちろん天を目指すということ自体は現実味はないが。)オペラの元祖にこういった演出を施すことに、のけぞってしまう観客もいたが、私としてはこうすることによって断然おもしろくなったと思う。でもさすがに、背景のスクリーンにガングロヤマンバ女子高生のアップが映された時には、私もその唐突さにのけぞってしまった。

 音楽的にはいうことなし。こんなに小さな空間で、無理せず歌っている声を聴くのは心地よい。オルガンとティンパニ、タンバリンが大きな位置を占めるオーケストラもとても良かった。

 最後になってしまったが、作曲はエミーリオ・デ・カヴァリエーリでした。

(4月30日 新国立劇場小劇場)

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