東京オペラ・プロデュース「オテロ」

 初めて観るオペラについての予習や下調べはほとんどしないし、自分的には何も知らずにいきなり舞台で接した方がお芝居としてはおもしろいと思っているのだが、そういう私でも文学作品が元になっているオペラについては原作を先に読むことは多い。ということで「オテロ」を観るのだからと思い、意気込んで文庫本の「オセロー」を買って読み始めたのはいいものの、まもなく、過去に全く同じ文庫本の「オセロー」を読んでいたことに気がついた。それもそのはずで、今回観るロッシーニの「オテロ」は確かに初めてなのだが、その前にヴェルディの「オテロ」は観たことがあるし、原作は少なくともその時には文庫本で読んでいるはずなのだった。

 オテロとロドリーゴだけでなくヤーゴまでテノールで歌われる。(ちなみにキャシオーの役柄はロドリーゴに包含されていて出てこない。)とても高いテノールの二重唱が続けざまに歌われるので、テノール好きにはたまらない快感があるのかもしれないが、ソプラノとバリトンの二重唱の方が好きなものにとっては多少音楽的につまらないものがある。テノールの二重唱も最高点に達した時はハラハラ感と充実感があるのだが、そこだけしかおもしろくない。これは完全に個人の嗜好の問題だから、そうでない人にとっては最高点以外にもおもしろみがあるのだろう。そのテノールではロドリーゴの青地英幸とヤーゴの田代誠がよく響いていた。オテロの蔵田雅之も最初はこの二人に比べどうかなと思われたが、舞台が進むほどに良くなっていた。女声ではデズデーモナの松尾香世子も良かったが、エミーリアの後藤美奈も負けずに良くて、テノール陣の二重唱よりもこの二人の声が重なる時の方が満足感があった。

 舞台や演出はオーソドックス。作品としてはヤーゴの登場も少なく変化に乏しいので、演出面でもっとおもしろくしてもらいたかったという感じ。ただロッシーニのデズデーモナはオテロに刺し殺されるのが本当らしいが、この演出ではオテロは短剣を振りかざしながらも原作通り絞殺していた。

 終わると「オペラを観た」という気分にはなるが、気分の高揚感は高くなかった。多分オペラ鑑賞上級者向けの作品なのだと思う。聴く人によってはヴェルディの作品よりもロッシーニの方が聴き応えがあるそうなのだが、私のような初心者にとっては原作に忠実で音楽もわかりやすいヴェルディの方が涙を流しやすい。

(7月20日 新国立劇場中劇場)

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