藤沢市民オペラ「ラ・ボエーム」

 藤沢といえば、前回の「リエンツィ」のように日本初演とか大掛かりな作品の上演というイメージができつつあるが、公演歴をみると基本的なメジャー作品も多く上演している。でもやはり市民オペラとしてはスケールの大きなことでは定評があるし、公演サイクルが一定ではなく、2年ぶりとなると、いくら「ラ・ボエーム」でもそれなりの舞台にはなるのだろうと期待してしまう。

 まず充実したキャストに期待してしまう。福井敬、菅英三子などなどはじめから安心できるし、実際すべて申し分なかった。

 合唱にも期待してしまう。藤沢市のいくつもの合唱団の合体なので、そのボリュームに圧倒されるだろうと予想していたが、案の定第2幕の合唱の多さは、思わず幕が開いた途端客席から拍手がわくほどであった。しかも混成なのによくまとまっている。「ボエーム」の合唱は、実はある程度力で押せる第2幕より、そのあとの第3幕の小人数のしっとりとした合唱の方が雰囲気を出すのが難しいのではないかと思う。もう少ししっとりさがほしかったが、もしかしたらそれは第2幕の合唱があまりにも迫力があったための反動かもしれない。

 演出は栗山昌良。12年前に私が初めて観たオペラの舞台も栗山昌良演出の「ラ・ボエーム」だったが、それ以来のことになる。12年前は、オペラが初めてだから当然「ラ・ボエーム」も初めてで、したがって演出がどうこう感じるどころではなかったのだが、ただ第2幕がやたら華やか中、群集のストップモーションを効果的に使っていることだけは記憶に残った。果たして今回も同じくストップモーションを効果的に使っていたが、ストップモーションへの入り方が12年前はいきなり動きが止まっていたのに、今回はスローモーションから止まっていたところが違っていた。それと、第3幕の幕切れのムゼッタの行動が他の「ボエーム」と違っていたが、12年前と違っていたかどうかは覚えていない。

 こういったところまでの出来は事前に期待していたところなのだが、正直なところ今回期待以上に良かったのはオーケストラだった。(他の要素よりも期待度が小さかったということもあるが。)広上淳一指揮の藤沢市民交響楽団は、合唱に負けず大きな音を出して盛り上げ、全体としてもプッチーニのうねりを良く出していた。細かいところでは「おや?」と思ったところもあるが、全幕を通して感情的に響いていた。これはなかなか良かった。オーケストラだけを聴いていても涙が出てきたのだ。私の場合、どっちにしろ「ボエーム」では泣いてしまうのだが、思わず涙がこぼれたのはオーケストラが直接要因だった。

 私は以前から東は藤沢、西は堺が市民オペラの横綱だと思っているが、共通点を一つ見つけた。藤沢市民会館も堺市民会館もやたらと客席が窮屈なのだ。堺市民会館にはもう数年訪れていないので変わっているかもしれないが、この二つの市民会館は座席の窮屈さでも東西の横綱である。

(9月2日 藤沢市民会館)

戻る