新国立劇場「幸せな間違い」

 あいにく私はイタリア語の読解力を持ち合わせていないので、「L'Inganno Felice」の直訳が「幸せな間違い」なのか、もう少し違うニュアンスがあるのかよく分からない。その上、ロッシーニの作品群についての知識も持ち合わせていないので、このオペラの邦題が「幸せな間違い」として一般に通用しているのかどうかも分からない。そういう全く無知な状態でこのオペラを観たところ、題名になっている「幸せな間違い」とは一体どういうことなのだろう、と不思議に思ってしまう。「不幸な誤解」を解くところがこのオペラのあらすじだと思うが、どの部分が「幸せな間違い」なのか分からない。もしかして、私は台本作者や作曲者の重要なメッセージを感じ損ねているのではないか、という不安も残ってしまう。

 ロッシーニの1幕もののファルサは音楽も話もおもしろくて、その上大体1時間半ぐらいで終わるから、気軽に観るオペラとしては結構好きなのだが、あまり日本では上演されない。大きなホールでは物足りなさが出てくるし、集客力はないだろうし、合唱は出てこないし、などなどの理由で、日本ではプロの団体も市民オペラも外来も取り上げにくいのだと思う。それに、ロッシーニのファルサは、オペラのスタンダード作品をひととおり観たという人が観たくなってくるような、中級者向けの雰囲気がある。私も過去に日本で観たものといえば、豊中で「ブルスキーノ氏」を観ただけで、この時のように音楽大学が主催するような形でないと、なかなか難しいと思う。

 そう思って諦めていると、新国立劇場が私の大好きな小劇場で取り上げてくれた。さすがは国立オペラハウスである。

 小さな公演であるにもかかわらず演出の粟國淳と指揮の星出豊が全力で取組んでいて、気軽に観ているつもりだったのに、おもわず感動してしまった。粟国さんの演出は細部が自然に作られていて、観ていていつも物語に入り込んでいきやすい。星出さんの指揮は、オペラについてはオールマイティではないかと思われるほど、きっちりと満足させてくれる。

 キャストも充実していて、5人しかいないが、それぞれの性格をよく表現していて、聴き入ってしまった。

 結局、「幸せな間違い」というタイトルはピンとこなかった。そこで、「群盗」の時のように私なりに違うタイトルをつけてあげようと思う。「十年の誤解」、「ひとりぼっちになったタラボット」、「鉱夫の姪は公爵夫人」。「幸せな間違い」よりはそそられると思うのですが、どうでしょうか…。

(9月9日 新国立劇場小劇場)

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