千葉市民オペラ「カルメン」

 各地で市民オペラを観ているので、千葉市民オペラを観るといっても、特に自分が現在千葉市民であるということは意識していないとは思うのだが、率直に自分の感想を述べると、千葉市民オペラは毎回オペラとして完成度の高い舞台を上演してくれている。堺や藤沢や市川のようにプロ級ではないけれど、舞台を観たという充実感がある。前々回の「フィガロの結婚」では、4幕のバジリオのアリアをきっちり歌わせたり、幕切れは舞台後方の壁を開放して屋外の道路に全員飛び出させたりしていたし、前回の「椿姫」では黒と赤ずくめの舞台に現代の衣裳で演じられていて、これは私の「椿姫」鑑賞歴のなかでも印象度の高い舞台であった。しかも、こういったおもしろい舞台が続くということは、大体指揮者か演出家が毎回同じ人で、コンセプトが一定しているから、ということが多いのだが、ここの場合はそういうこともなく、毎回違う人が指揮や演出を担当している。

 今回は、小松一彦指揮、西澤敬一演出の「カルメン」。小松一彦さんなんて、私としては学生の頃関西でよく聴いていたが、実に久しぶりで、過去の鑑賞記録をたどってみると、89年の大阪市制100周年「フィガロ」以来であった。キャストは岩森美里、本宮寛子、成田勝美、加賀清孝など。本宮寛子さんのミカエラなんて、いまどき千葉市民オペラでくらいしか観られないんじゃないか思えるほどのキャスティングだ。前回のヴィオレッタの時は良く合っていたが、さすがにミカエラには少々ういういしさに物足りなさがあったが、それでもミカエラらしい雰囲気は保っていた。それはまるで一昔前のアイドル歌手が「今夜復活、20世紀のアイドル!」のような番組で無理矢理若い頃のフリフリ衣裳を着けさせられて歌うと、さすがにアップで見るとゲンナリするものの、全体の雰囲気はそれっぽく見えるようなのと同じ感覚であった。岩森美里さんの迫力あるカルメンとの対比があったから、なおさらそう感じたのかもしれない。

 舞台装置は何枚かの大きな壁を、時には張りぼての背面をも活用しながら、いろいろ組み合わせて場面を作っていた。単調さに流されそうな方法だったが、とても高さのある壁であったので、壮大さが最後まで崩れずに、観客の反応も良かった。演出も、西澤さんらしくスケールの大きさを感じさせるものであったが、最終幕の闘牛場までミカエラが追いかけてくるのは、「真のファム・ファタルはカルメンでなくミカエラだ」というようなクプファー的な扱いならともかく、可憐さのままの処理をしているミカエラとしてはちょっと違和感がある演出だった。

(3月3日 千葉県文化会館)

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