多摩シティオペラ「ラ・ボエーム」

 「パルテノン多摩」というホールの名前は随分昔、私が高校生だったか大学生だったかその頃から音楽雑誌などでよく聞いていたが、そのネーミングのイメージから遥か東京近郊の新しいきれいな街並みの中に存在する豪奢なコンサート専用ホールを想像していた。東京や横浜までオペラを観に行くようになってからも、さすがに多摩まで足をのばすことはなく、勝手にザ・シンフォニーホールのようなオルガン付きのシューボックス型ホールだと思い込んでいて、オペラが上演できるところだとは思っていなかった。ようやく千葉に転勤してきてから、アグネス・バルツァのリサイタルのために初めてパルテノン多摩を訪れたが、意外に1階席しかなく、小さくて、市民会館をちょっとセンスアップしたような程度だったことに驚いてしまった。そして多目的ホールなので十分オペラも上演可能だと分かったのだった。

 そのパルテノン多摩で初めてオペラを観た。実は外来団体も来演するようだが、多摩シティオペラという地元の団体の「ラ・ボエーム」。もしこれが初めてのパルテノン多摩訪問であったのなら、この公演に豊かな期待をもって望んだであろうが、いまやホールの様子を心得ているので、市民会館で市民オペラを観せてもらうような感覚で出かけた。

 公演の様子は察した通りだった。簡素で寂しい舞台装置だが、合唱はボリュームがある。そして客席では時々話し声が漏れ、合唱の場面ではフラッシュが光る。やはり普通の市民オペラだった。

 でも、伴奏と児童合唱は、他の市民オペラより格段に良かった。オーケストラは東京モーツァルト室内管弦楽団で、オペラに慣れているのか、出しゃばることなく、十分にオケだけでも聴き応えがあった。児童合唱は、他のオペラでもよく名前を聞く多摩ファミリーシンガーズ。声量も演技もなかなか立派で、特に「お馬がほしいよ」と叫ぶ子供の声は、普通はかぼそくてもご愛嬌なのだが、今回はキャストと同じくらい大きく伸びやかな声であったのは、少々腰を抜かしてしまった。

 それから、大胆にも字幕無し原語上演だった。昔は字幕なんて無かったといえばそうなのだが、広く市民を対象にした公演であれば、ふつう字幕付きか訳詞のはずだ。藤沢だって訳詞だ。外来や音楽大学の公演で字幕無し原語というのは何度か経験あるし、そういったところでは別に構わないのだが、市民オペラの場合は、観客が公演中にプログラムのあらすじを探したりするのがちょっとうるさく感じた。

(3月24日 パルテノン多摩)

戻る