新国立劇場「ねじの回転」

 ブリテンのオペラは、比較的最近のオペラにしては日本でもそれほど上演が珍しいということはない。しかもいろいろな作品が上演されている。ところが決まった作品が繰り返し上演されているわけではない。私も今回で5回目のブリテンの舞台なのだが、同じ作品を二度舞台で観たことはまだない。つまりブリテンのオペラを観るのは5回目だが、5作品目でもある。これは頻繁に上演されるいわゆる「代表作」が決まっていないことだと思う。「ピーター・グライムズ」が代表作だとか「ヴェニスに死す」だとか、いろんな声がある。私は「アルバート・ヘリング」が一番好きなのだが。まだ没後25年という段階は受容と選別の過程であって、代表作が定まっていないということなのだろうか。

 「ねじの回転」を一番評価する人も多いようだが、私は今回初めて観た。CDは聴かないし、評判のLDも観ていないので、音楽の断片さえも実は知らなかった。しかし少なくとも本格的な幽霊が出てくる話だということは、さすがにオペラ好きであれば黙ってても知ってしまうほど有名である。だから、舞台では一度は観てみたいと思っていた。

 そもそも室内オペラなので、私の好きな新国立劇場の小劇場での上演。本格的に幽霊が出てくるとはいっても、さすがに舞台上で美しい声で歌う幽霊なんて現実離れ(というか幽玄離れ)しているので、おどろおどろしいことはなかった。こういった効果は芝居や映画にはかなわないということも改めて分かった。しかしそれでも、他のオペラには無い独特の雰囲気は保っていて、おもしろいのかどうなのかも分からないような感じで、第1幕が終わった後なんか、数人がパラパラと拍手しただけで客席中がどよんとした空気のまま休憩に入ってしまったりしていた。休憩中にロビーをうろうろしても、どういった感想を話したらいいのか困惑している人たちが多かった。もっともこういうような状況に陥らせることができただけで、作曲者も演出家も成功したことになるのだろう。

 舞台全面分の大きさがあるスクリーンをうまく活用していた。スクリーンを使うと、スクリーンの大きさや映像の美しさやタイミングによっては、経費節減、手抜き、などというような興をそがれる逆効果も期待できるのだが、今回は大きさもタイミングも美しさも良くて十分な効果を上げていた。小劇場での室内オペラとは思えないほどの壮大さも得られたし、場面転換が多くてもすぐに情景がのみこめた。6人のキャストと13人のオーケストラの演奏も効果的で良かった。

 2月の「マクベス」も亡霊が出てきてオカルトっぽい場面もあったが、なぜか新世紀に入って楽しい話ではなく、亡霊がはびこるような話の方が多い。不況のせいだろうか。

(4月21日 新国立劇場小劇場)

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