昭和音楽大学「ドン・パスクァーレ」

 今までは「東成学園オペラ」としての公演名だったが、今年から「昭和音楽大学オペラ」と名前が変わっている。ここのオペラをこれまでに、「愛の妙薬」「夢遊病の女」と観てきたが、公演レベルとしてはかなり高く、大学の公演と思って油断していくと驚いてしまう。そして、音楽的に充実していること以外の特徴としては、@「村の若者」が本当に若い(「村の老人」も若い)、A舞台美術が手を抜かずリアル、などがある。

 そういう特徴からすると、今回の演目は利点を発揮しきれないものであったかもしれない。そもそも話の展開が、作品の歴史的観点を持たず単純に物語として捉えた場合、現代日本では到底納得しえない内容である。オペラ通と自認するような観客ばかりが集まる団体の公演であれば、滅多に上演されない作品を一定の音楽レベルで観れるのだから大いに価値があるだろうけど、普段からオペラを観ていない人が多い公演だと、観客が音楽的な感動よりも先に物語的に反感を覚えてしまう可能性がある。やっぱり合唱が見た目に若い、という特徴を生かして牧歌的な喜劇を選んだ方が、観客の満足度も高くなっただろうと思う。

 舞台美術についても、いつも通りしっかり作っていて十分なのであるが、多数のイスを中心とした調度品が最大限に利用されているとは思えず、少々うるさく見えてしまった。普段天井に吊していて観客の目に見えることのない照明装置を床近くまで下ろしてくるなど考えられた処理はあって、個人的にはおもしろかったのだが、やはり明るくて楽しくなるような舞台装置がここのオペラには似合っているし、観客も満足できたと思う。

 演奏は、こちらはいつも通り、最高であった。菊池彦典指揮のオーケストラは、学生中心とはいっても、さすがは音楽大学でのオーケストラだけあってプロのオケがピットに入るのと全然遜色がない。むしろ、この公演に向けて深く取り組んでいるのか、プロのオケよりも安定感があるようにも感じられる。キャストは、卒業生のプロと大学院の学生の混成だが、その格差はほとんど感じられないくらい充実している。若干、役柄に比して若く感じられる部分もあったが、特に気になるようなことでもなかった。合唱も、演目の内容だけに華やかに登場することがな少なくて残念だったが、若々しくはつらつとした、それでいて安定感のある合唱は、他の公演では味わえない醍醐味であることは間違いない。

 しかし、どうしてこの作品を選んだのだろうか。私としては、「ドン・パスクァーレ」をこれだけ立派な舞台で観れたのだから大満足なのだが、独身の老人をだましていたぶるオペラなんて大学の公演としては受けないと思うのだが。

(2001年11月10日 新国立劇場中劇場)

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