国立オペラ・カンパニー青いサカナ団「僕は夢を見た、こんな満開の桜の樹の下で」

 題名からして惹かれるオペラである。こんな新作が舞台にかけられるとなると、ぜひとも観に行きたくなる。しかもチラシを見ると、2003年春の東京都内のファミリーレストランから物語が始まるらしい。こういう設定も私の心をうずかせる。主催は東京文化会館だが、実質的に青いサカナ団の公演なので、演奏面でも高水準が期待できる。以上のことにより、私がオペラ鑑賞に求めるものを満たしてくれそうな予感がするので、平日の6時半という多少無理な時間帯だが、いろいろな無理を無視して出かけた。

 書き下ろしの新作なので、物語の概要を説明すると、時は2003年の桜が散る金曜日の午後5時。かなり限定された日時である。おまけに初演時点で約2ヶ月後という設定具合も微妙なところである。場所は東京都内のとあるファミレス。日常の光景に銀行強盗をした2人組が逃げ込んでくる。そこで客や店員7人を人質にとって立てこもるが、このあと犯人や人質たちが、それぞれの年代や立場から、現代日本社会への嘆きを語る。それぞれの主張は対立するが全てリアリティがある。まさしく現実の対立である。そうこうしているうちに、人質の中の不思議な雰囲気の女性が、犯人の一人に、あなたの夢を叶えてあげると言って、前半が終わり。後半は打って変わってファンタジーの世界である。要約して言えば、夢の世界で何でも夢が叶えられるのだが、何かが違うような気がしてならないし、具体的な夢とは何なのかもわからなくなる。犯罪者であっても現実に戻りたいと思うようになる。戻ったところで、ファミレスに警官が突入し逮捕。

 芸術鑑賞は、そのあとに人生や社会に影響を及ぼさなければ芸術を自分に取り込めないが、そういう観点からすると、最初からまさに今日の日本での状況を背景にしているので、過去の作品を現代センスで上演するより受け入れやすくなっている。この作曲者の言うところの「読後感」が感じやすくなっている。ともすれば登場人物の誰かひとりと同じ感覚で今の社会の閉塞感を嘆いているかもしれないが、観終わったあとには、少なからずそれではいけないなと自分自身を思い直してしまう。そう思わせてくれただけで、この公演の芸術性はあったわけだし、それを観客の一人である自分にも取り込めたことになる。それが作者の気持ちと多少ずれても、その部分は私独自の部分で構わない。

 このように作品としてとてもおもしろいが、改良を加えるとしたら、まず後半の夢の世界での出来事が細かく長いこと。もう少し刈り込んで短くした方が幻想性が持続する。それと前半のやりとりが、かなり現時点でのリアリティがありすぎて、5年後には古くなるかもしれないこと。もう少し幅のある「現代」が設定されている方が年を経た再演にも耐えられると思う。(先月の「青の洞門」もそうだが、日本の新作オペラについて再演に向けた改良点を勝手に書いてホームページで公開すると、どこかで作曲者の目に留まって参考にされないかなと期待してしまう。実際目に留まっても参考にされないだろうが、そう思えるだけでも新作は楽しい。)

 青いサカナ団なので付け加えるまでもないが、キャストもオーケストラも初演とは思えないほど申し分ない演奏だった。

(2003年2月7日 東京文化会館小ホール)

戻る