小論文集


とっておきの考え

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作成日 2001/4/30

「アキレスと亀の話」 高木 尚

古代ギリシア文明が、現在の西欧文明への大きな分岐点の一つを為していることは、大方が同意することのようだ。確かに古代ギリシアには、興味深い人々、興味深い思想が数多くある。ここで取り上げる話題も、その時代のギリシア人が考え付いたあるパラドックスについてだ。このパラドックスは言葉について考える時、言葉の意味を混同した場合に生じる誤りと、事の正誤を判断する為には知識も必要であることを教えてくれる。 彼が考え付いたパラドックスは次の様なものだ。 「足の速い人間アキレスと、足の遅い亀が居る。アキレスは秒速2mで走り、亀は秒速1mで走ると仮定しよう。同じ場所から両者が同時にスタートすれば、両者の差はただ開いていくだけだ。そこで亀のスタート地点をアキレスより100m前にして、同時にスタートすることにしよう。そうしてみてもアキレスは亀に追い着き、その後は両者の差はただ開いていくことになる。この事は一般に観察される事実だが、次の様に考えてみるとアキレスが亀に追い着くはずはないことになる。 100m離れてアキレスと亀は同時にスタートする。アキレスが100m先の亀のスタート地点に着いた時、亀はそこから何mか先に居る。そこを地点1としよう。アキレスが走り続けて地点1に着いた時、亀は地点1の何mか先に居る。そこを地点2としよう。再びアキレスが走り続けて地点2に着いた時、再び亀は地点2の何mか先に居る。この作業を何度繰り返しても、亀は必ずアキレスの前に居ることになり、だからアキレスは亀に追い着くことは出来ない。」 私達はアキレスが亀に追い着くことを事実の観察として知っている。スタート後何秒で亀に追い着くか、次の様な簡単な計算で算出できる。 2m/秒×X秒=100m+1m/秒×X秒 よって、 X=100秒 すなわちスタート後100秒で、アキレスのスタート地点から200m先で、アキレスは亀に追い着くことになり、このことは実際の観察と一致する。しかし彼のパラドックスのようにこのことを考えると、頭が混乱しアキレスが亀に追い着くことは不可能なようにも思えてくる。だからこそパラドックスと言うわけだが。 このパラドックスは、一つは言葉の混同から生じている。それが主張するようにアキレスが亀の居た地点に辿り着いた時、亀はそこからどの程度か前に居て、この作業を何度繰り返しても、アキレスは亀に追い着くことは不可能なように思える。それはその通りなのだ。その作業の繰り返しが有限回である間は、アキレスは亀に追い着けない。しかし無限回それを繰り返せば、アキレスは亀に追い着くことが出来るのだ。そしてここで勘違いが生じる。無限の「回数」繰り返さなければならないのなら、アキレスは結局「いつまでも」亀に追い着けないのではないかと。 「いつまでも」という言葉は時間の観念を表す。だが「回数」と「時間」は同じ事ではない。このパラドックスに関してこのことをもっと正確に言えば、無限の「回数」を繰り返すからと言って、それに無限の「時間」を必要とするわけではない。この場合無限の「回数」を繰り返すのに要する「時間」は有限であり、それは100秒なのだ。 以上が言葉の意味を混同することによって生じる混乱の説明だ。しかし釈然としない人も居ることだろう。これ以上の説明には若干の知識を要する。それをやってみよう。 アキレスが亀のスタート地点に達するのに50秒を要する。その時亀はアキレスの前方50mに居る。そこを地点1とする。アキレスが地点1に達するのに25秒を要する。これを繰り返すと、それぞれに要する時間は、12.5秒、6.25秒、3.125秒 ・ ・ ・ と半分づつ小さくなって行く。このことを表にすると次の様になる。 アキレスが亀が居た場所に着くのに要する時間をA秒とし、アキレスのスタート地点からその時のアキレスが居る距離をBmとし、その時のアキレスと亀の距離をCmとすると、 A 秒 B m C m 50 100 50 25 150 25 12.5 175 12.5 6.25 187.5 6.25 3.125 193.75 3.125 1.5625 196.875 1.5625 0.78125 198.4375 0.78125 0.390625 199.21875 0.390625 0.1953125 199.609375 0.1953125 0.09765625 199.8046875 0.09765625 0.048828125 199.90234375 0.048828125 0.0244140625 199.951171875 0.0244140625 0.01220703125 199.9755859375 0.01220703125 0.006103515625 199.98779296875 0.006103515625 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ のようになり、この表をこれ以後書き続けてもアキレスと亀の距離Cはゼロにはならない。だが繰り返すが無限回繰り返せばCはゼロになるのだ。n回繰り返した時のアキレスと亀の距離をCnとすれば、 Cn=100÷(2 ) となり、nを無限大にすると(2 )は4・8・16・32 ・ ・ ・と結局分母は無限大になるから、Cn=0になる。 一方、nを無限大にしてアキレスと亀の距離がゼロになるのに要する時間は、1回目の作業が50秒、2回目の作業が25秒、3回目が12.5秒ということだから、無限回の作業、すなわちnを無限大にした時に要する時間はA欄の数字を順番に無限回足した時に求められる。それを[A]とすれば、 [A]=50+25+12.5+6.25+3.125+1.5625+・ ・ ・ ・ になる。ここで[A]に0.5を掛けると、 0.5×[A]= 25+12.5+6.25+3.125+1.5625+・ ・ ・ ・ となり、 [A]-0.5×[A]=50 だから 0.5× [A]=50 となり、結局nを無限大にしてアキレスと亀の距離がゼロになるのに要する時間[A]は、有限な値100になり、100秒後にアキレスは亀に追い着くことになる。 ついでに言えば、その時のアキレスが移動した距離はB欄の無限回目の値であり、それは200mなのだ。 そこでこのパラドックスは、言葉の混同によって生じると共に、[A]のように最初の項=50から25,12.5,6.25 のように半分づつ減少していく数の列の足し算は、結局は有限な数字、この場合は100、に落ち着くということの知識の不足によっても生じることが分かってもらえると思う。 言葉はその意味を正しく理解することによって、誤謬から免れることが可能になる。無限の「回数」は無限の「時間」を意味するわけではないのだ。そして同時に、事物を正しく理解する為にはどうしても知識が必要になる場合もあるということなのだ。




八雲
体系的世界論
「世界」とは何か?
作成日 2001年7月15日


【はじめに】  まず、はじめに。この小論文のタイトルに用いられている『体系的世界論』は、考察の入口にさしかかったばかりであり、まだ皆様にその具体的論拠や理論を述べる段階にはありません。  しかし、その基本的なコンセプトを提示することはできますし、私はそのコンセプト自体についての意見を聞きたく、これを著するものであります。どうか、その点をご了承くださいませ。 【1.世界とは?】  最初に、いきなりですがこの小論文の結論から述べます。 [結論] 1.世界とは、主観的にとらえられている事実の総体である。 2.「世界は有限であり、かつ、無ではない」という命題は、疑うことができない。 3.世界外のことについて「思考する」のは不可能である。  この3つが、現在の私の考察です。そして、これらの結論を語るうえで重要な概念が、「体系」です。この小論文において、「体系」は主に「論理体系」を意味します。この「論理体系」は以下のような性質を持ちます。 [<体系>の性質] 1.理解可能な体系は有限である。 2.理解可能なすべての体系は公理をもつ。 3.すべての体系は不完全であるか、理解できないかのどちらかである。 注:今回はこの 3 について論じます。  少し抽象的になってきたので、具体例を出します。例えば私たちは、日常生活においてよく計算をします。日常生活の基本的な計算は10進法にもとづきます。10進法とは、 1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・・・ という「数字の表現の仕方」です。これ以外にも、 1・10・11・100・101・110・111・・・ とする2進法があります。この2つの間では、1が1に、1が10に、3が11に対応します。そして、これらは数学において同一の概念上に存在します。  さて、ここでこれらを「体系的」に説明してみましょう。10進法は「10進法という体系」、2進法は「2進法という体系」であり、この2つは「数学という体系」に属すると言えます。  では、このような体系が存在するということは何を意味するのか? それは、「ある事実を説明するための<体系>は、ただ1つ存在するわけではない」ということです。  また抽象的になったので、話を戻します。要するにこうです。 [10進法の体系]  ここにリンゴが1個、ミカンが2個、なしが3個ある。 [2進法の体系]  ここにリンゴが1個、ミカンが10個、なしが11個ある。 (注:左から、イチ・イチゼロ・イチイチと読みます) つまり、リンゴ・ミカン・なしの「存在様式」が2通りの説明で言い表されうるのです。  では、さらに話を進めましょう。ここにきて、誰かが「じゃあ、リンゴ・ミカン・なしは全部で何個あるのか?」と聞きます。私たちはどう答えるでしょうか? [10進法の体系]  6個 [2進法の体系]  110個(注:これはイチイチゼロ個と読みます)  これだけを見ればなんてことはありませんが、問題はその計算家庭にあります。前者は簡単です。 1+2+3=6 でよいからです。しかし、後者はどうするのでしょうか? 1+10+11=22? あれ?  これは何を示しているのか? それは、「私たちが日常生活で使っている足し算は、正確には<10進法の体系内にある足し算>であり、これは2進法に応用できない」ということです。すなわち、 [小結論]  私たちが普段使っている「10進法の足し算体系」は不完全である。  10進法の体系内では計算できるが、2進法の体系内では計算できない(誤った解を出す)ような足し算体系は、不完全であると言えます。  では、「完全な足し算体系」は存在するのでしょうか?  私の結論は、「それは理解不可能である」です。  なぜか? ○○進法というものは無限に作れます(ここがポイント! 「無限にある」のではなく「無限に作れる」。ここではその詳細な説明をしませんが、私は「無限」の存在を否定します。ただ、「無限に続けられる可能性」は認めます)。2進法、3進法、4進法、5進法・・・などなど。私たちがもし「完全なる足し算体系を求めよう」としても、それは「永遠に終わらない作業」になります。永遠に終わらないのですから、「理解不可能」です。問題は、「完全なる足し算体系が存在するのか否か?」ではなく「存在したとしても、それは理解可能なのか否か?」であり、その答えは「存在したとしても理解できない」というものです。  ゆえに小結論。 [小結論]  完全なる足し算体系は理解不可能であり、理解可能な足し算体系は不完全である。  少しばかり時間が迫ってきたので、申し訳ありませんが今後の方針だけ述べさせてください。  私は、この「完全なる○○体系は理解不可能であり、理解可能な○○体系は不完全である」が、すべての体系に適用できるのではないだろうか?と考えているのです。  例えばゼノンのパラドックスでは、  一般の観念論はゼノンのパラドックスを説明できない。速水さんの唯物論はゼノンのパラドックスを説明できる。しかし、これは観念論が間違っているからでは、なく観念論が不完全な体系であり、ゼノンのパラドックスはその不完全さから由来する。逆に、速水さんの唯物論が正しいからゼノンのパラドックスを解決できるのではなく、単にそれが速水さんの唯物論の体系内で説明できるものであったからに過ぎない。より詳しく言えば、そもそも速水さんの唯物論の体系にとって「ゼノンのパラドックス」なるものは存在しないのである。これはパラドックスの解決ではなく、パラドックスの消滅である。  観念論と唯物論、それは2つの「不完全な体系」であり、ゼノンのパラドックスは前者には説明できず、後者には存在しない。  すみません時間が…。続きはまた次の機会に。




八雲 孝
体系的世界論
「公理」とは何か?
作成日 2001年7月17日


前回は、私の『体系的世界論』の基本骨子を、不十分ながらも説明しましたので、今回は「公理」について論じます。公理とは、「その体系内で論証不要とされている前提としての論理」です。これについても具体的に例をあげますと、物理学において「時間が存在する」とか、数学において「数は存在する」とかいうものがそれに該当します。数学において、「数が現に存在することを、数学によって証明せよ」と言われても、それは不可能です。なぜなら、「数が存在する」ことは「数学の体系」の前提なのですから、数の存在を証明することは前提を証明することになり、それは公理の性質上反します。  さて、「公理の性質上反する」と書きましたが、どういう意味かといいますと、公理というのはその体系が成立するための大前提であり、その大前提が存在しなければその体系は成立しない、ということです。要するに、「証明する」という作業は、「その命題が真か偽かを判断せよ」ということと同義であり、「真か偽かを判断する」ということは、「その命題が真であるか偽であるかはいまだ不明である」ということをタテマエとしています。つまり、「その公理が真であるかどうかは不明」=「その公理が存在するかどうかは不明」=「数学という体系が成立するどうかは不明」となり、「存在するかどうか不明な数学の体系を用いて、数が存在することを証明」することはできません。ゆえに、[小結論] 「ある公理が真であるかどうかを、その公理を前提とする体系で証明することは不可能である」となります。  このような理論は、おそらくすべての体系にあてはまるのではないでしょうか?  今回は短めですが、私なりの「公理」の定義が後々の議論に必要なので、書かせていただきました。




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