サイバネティックス


cybernetics

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作成日 2003/4/2

「操舵の術」の意。アメリカの数学者ノーバート・ウィーナーにより1948年頃発表され注目をあびるに至った学問体系で、ある目的を達成するために必要な情報処理と制御の手法に関する技術論、およびこの通信と制御の観点から従来の学問区分に拘束されずに広く生物・人間・機会・社会の機構を統一的に解明せんとする方法論ならびに世界観をさす。次の諸理論がその基礎をなす。

(1)フィードバック原理(制御の結果の良否を、制御を逐次改善するための信号として用いる)を中軸とする自動制御論、(2)制御に必要な情報の規格化・受容・伝送・貯蔵・加工に関する情報理論・計算機理論、(3)目的達成行動一般の定式化をめざし、統計や線型数学などを駆使する最適値決定理論。これらは密接に結合して一連の数学的手法・工学的技術の体系を形成し、コンピューター革命・情報革命・システム工学などの実体をなしている。サイバネティックスの応用技術面の発展はめざましく(1)に関してはオートメーション・工学的生物学・宇宙開発技術、(2)では通信衛星など通信機器・情報検索・言語理論、(3)ではゲームの理論・戦略決定論・生産計画論などがあげられる。しかしこれらの応用面とはなれてその根底に次のような哲学が流れている。

近代科学はその基礎を古典物理学においていることからもわかるように、(1)物質を究極の概念とし、物質の集合としての対象界を正確に完全に写しとることが理想とされ、(2)決定論的機械論的世界像を構築し、(3)誤差や偶然はいくらでも無に近づけうるものとされ、(4)認識の到達すべき絶対的な状態を想定するのに対し、現代科学としてのサイバネティックスは、(1)物質やエネルギーではなく相異・分節・パターン・情報・構造・システム等の概念が基礎におかれ、(2)いかなる世界像をうるかの決定要因が主体の側にもあり主体が対象にまきこまれ作用しあう中で相互規定をうけ、(3)厳密に古典力学の適用しえぬ条件の下で誤差や偶然をも包摂した準精密科学の確立を意図し、(4)人間の認識をある絶対的なもの、あるいはそれへの接近としてより、むしろ新しい解決が新しい疑問を生みだすという永遠の動的過程として承認する。

このような観点からサイバネティックスは生命と物質、進化とエントロピー、機械的・形式的なものと人間的・創造的なものの本質、分析哲学における還元主義などに新しい光を投げている。応用面では施設に巨額を要するところから政府機関や大企業にのみ用途が開かれているが、哲学的には人類が将来の方向を決定するにあたって、タブー・神・国家・科学・論理などに絶対的に依拠しえなくなった今日、自らが自らの価値基準をつくる主体的な人類としての自己統御能力以外に何物も頼りうるもののないことをサイバネティックスは教えている。


現代哲学事典 山崎正一+市川浩編 講談社現代新書 より




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