Boorin's All Works On Sacra-BBS

「星組最後の戦い」後編



払暁、闇の最も濃くなる時。
星組の面々は非常警報の音に目を覚まされた。

「魔皇ベッケンバウアーと魔将ミュラーが軍を発した。
星組緊急出動。前回と同じ地点で迎撃する。
織姫とレニはアイゼンクライトの修理調整が完了しだい合流せよ」

「「「「「「了解」」」」」」




戦場に立つ黒い影。闇の暗さよりも更に暗い影が二つ。
魔皇ベッケンバウアーとミュラーである。

「戦場とは良いものだな。久々に血が沸き立つようじゃ」
「またあの頃のように二人で大暴れしましょうぞ」

「「「「「星組参上」」」」」

「来たか。全軍、敵機を包囲その動きを停めよ。ミュラーは前線に。
余は後方から移動しつつ敵機を攻撃する」
「承知」

「星組各機散開。軽機兵には極力構うな。
優先順位はベッケンバウアー、ミュラーの順だ」

「「「「了解」」」」

星組各機はそれぞれにミュラー、ベッケンバウアーを狙う。

ルートヴィヒはただ直線的にベッケンバウアーに向かっていた。
途中をふさぐ軽機兵は両手の戦斧でなぎ倒していく。

「ほう、なかなかやるではないか」

ミュラーがルートヴィヒの行く手に立ちふさがる。

「ふん、行きがけの駄賃だ。ベッケンバウアーの前に貴様から片づけてやろう」

ルートヴィヒの一撃をミュラーはその大剣で受ける。
斧を剣の上に滑らせてそのままルートヴィヒを剣で殴りつける。
ミュラーは機動性、技巧にはかけるが「爆撃ミュラー」の異名をとるほど一撃の破壊力に優れた魔将である。
その圧倒的な破壊力にルートヴィヒは思わずよろける。

ルートヴィヒはよろけながらも、もう一方の戦斧をミュラーの胴にたたき込む。

ルートヴィヒも狂戦士の異名を持つ男である。その貴族的な外貌に似ず、
技の破壊力では北斗を除けば星組一である。
ミュラーも思わず顔をしかめる。

二人のパワーファイターの戦いは、他の介入を許さなかった。
息詰まる一騎打ちが続く。お互いに防御は最小限にひたすら打ち合っている。
だが、やはり全魔将中最高の撃破数を誇るミュラーが徐々にルートヴィヒを圧倒し始めた。

ローレンスがフォローに回るべく上空から急降下してくる。
だが、その前にいつの間にか魔皇の姿があった。
「そうはさせぬ」
ベッケンバウアーは空中に飛び上がると同時にローレンスにカウンターで
蹴りをたたき込んだ。
魔皇ベッケンバウアー。かつて魔界制圧の戦いで、その常に風格を失わぬ
正攻法の戦いぶりに敵からすらカイザーと呼ばれ畏れられた
パワー、スピード、敵の動きを読む判断力全てに優れる最強の魔将である。

「アンダーザローズ!」

ベッケンバウアーの一撃にはじき飛ばされながらも、ローレンスは必殺技を放つと
岩の壁にたたきつけられて失神した。

無数の赤い矢がベッケンバウアーを襲う。

「うむ」

ベッケンバウアーの動きが止まる。
背後からマイヨールのレイピアが襲う。
ダメージを受けつつも魔皇はマイヨールの軌道を眼で追う。
再び近づいてきたマイヨールに魔皇はカウンターで剣を突き出す。
マイヨールは一瞬の判断で、それをかわすと小手に斬りつけると
また離脱する。
思わず剣を取り落としそうになるベッケンバウアー。




「アイゼンクライト修理完了。これよりそちらに向かう」
「了解」

レニから連絡が入る。

「合流まであと900秒。それまで持ちこたえられるか」

北斗はベッケンバウアー、ミュラーの双方を常に黄泉比良坂の射程範囲に
収めておくべくゆっくりと機を進める。




ミュラーとルートヴィヒの戦いは続いていた。
「驚いた。このミュラー相手に単機でこれほどやれる相手はおらん。
惜しい。実に惜しいがなおのこと倒さねばならん」
ミュラーの大剣がルートヴィヒの頭部に振り下ろされる。
戦斧を十字にして受けるルートヴィヒはそろそろ自分の限界が
近づいていることを知った。
「だが、せめてこいつだけは倒す」
ルートヴィヒは一旦間合いを取ると、左腕をだらりと下げ右腕を水平に構えた。

「喰らえっ、ローゼンクロイツ!」

左腕を跳ね上げ、戦斧を上に放り投げるとルートヴィヒはミュラーに
突撃した。上からの斧を払うと正面からの攻撃にやられる。
正面の攻撃を受けると頭を割られる。ミュラーはとっさに前に出て
必殺技を放つ。
「ボンベンハーゲァル!」
雨霰と降る爆弾に機体を砕かれルートヴィヒは絶命した。
が、しかし上空からのルートヴィヒの斧はミュラーの右肩に深々と突き刺さり、
正面の斧は脇腹を切り裂いていた。




ベッケンバウアーは突如戦法を変えた。
マイヨールの動きを予想し軌道線上に移動すると、
剣をマイヨールの胸めがけて突き出す。
マイヨールは上半身をひねってそれを回避しようとするが、
それはフェイントだった。
ベッケンバウアーの狙いはマイヨールの脚。
突き出しかけた剣を反転させると横なぎに脚を払う。
フェイントにひっかかったため無理な姿勢のマイヨールは避けきれず
両足を切り飛ばされてしまう。
止めを刺そうと構えたベッケンバウアーにアニェスの必殺技が襲いかかる。

「ラルクアンシエル!」

虹色の軌道を描いた大剣の強力な一撃がベッケンバウアーの背後を襲う。
よろめく魔皇。
だが、その必殺技を持ってしても魔皇の動きを一瞬停めるだけが精一杯だった。
振り向きざまに必殺の剣をたたき込む。
アニェスは剣を受け止める。ベッケンバウアーは力を込めて剣を押しつける。
押し返すところを剣を引き態勢の崩れたアニェスの胴に魔皇は強力な蹴りをたたき込んだ。
たまらず吹っ飛ぶアニェスの意識は既になかった。

マイヨールは最後の力を振り絞りベッケンバウアーの背後に必殺技を放つ。

「ル・グラン・ブルー!」

闇よりも濃い深い蒼の帳がベッケンバウアーの機体を地面に押しつける。
「うむ」
あえぐ魔皇。
だが、それも完全に魔皇の動きを停めるまでには至らなかった。
「良く戦った。だが、もう終わりだ」
技を耐えきったベッケンバウアーはマイヨールの心臓に剣を突き立てた。

北斗は星組の面々がベッケンバウアーとミュラーに与えたダメージを
冷静に計算していた。
彼らの残りの予想耐久値では北斗の黄泉比良坂を耐えきることは出来ない。
「我々の勝ちだ」

「いかん、ルンメニゲを葬った技を放つつもりだな」
ミュラーはベッケンバウアーに向かって突進した。

「黄泉比良坂」

大地より黄緑色の燐光が放たれベッケンバウアー、ミュラー、軽機兵を襲う。
軽機兵は一瞬にして、崩れ去る。
ベッケンバウアーの魔装もボロボロと崩れ始めていた。
「なんと、我が機体が崩れて行くわ」
しかしそれでもベッケンバウアーは背を伸ばし、傲然と立っている。
「戦場で死すなら、決して膝はつかん」

「陛下っ」
ミュラーは崩れ落ちる身体を支えながら、
最後の力を振り絞ってベッケンバウアーを上空へ放り投げる。

黄泉比良坂は大地の技である。従ってその射程範囲は上空には少し狭くなっている。
ルンメニゲ戦でのローレンスの動きを分析したミュラーはそのことに気がついていたのだ。

「今はこれにて」

ミュラーの身体は崩れ去った。

大地を覆う燐光が消え去り、ベッケンバウアーは着地した。
よろけている。だが一瞬といえども射程範囲を外れたために魔皇の機体にはまだ
耐久力が残っていた。

「見事だミュラー。これで私の命はなくなった。
だが、この戦は我らの勝ちだ。今のベッケンバウアーでは
レニと織姫の必殺技に耐える力はない」

150秒の硬直時間に動けない北斗機にベッケンバウアーが迫る。

「我らの負けよ。だが、余も魔皇と呼ばれた男。
せめて敵将だけは道連れにさせて貰う」
「ふ、好きにするがいい」

「カイザーロープ!」

ベッケンバウアーの機体が黄金色に輝き、その輝きは剣に収斂された。
魔皇はその剣を北斗の心臓めがけて突き出した。

「ダス・ライン・ゴルト」
「クアットロ・スタジオーニ」

レニと織姫の必殺技が魔皇めがけて繰り出される。

眩い光の洪水が去った後、荒涼とした原野に2つの影が立っているのをレニと織姫は見た。

息絶えた魔皇はしかし膝を屈することなく屹立し、
その剣は北斗の腹を貫いていた。

「北斗!」
アイゼンクライトから下ろされた北斗は
織姫の腕の中にいた。
「よく・・・やった。これで、・・・当分・・・欧州は平和だろう」
「あまり喋らない方がいい」
「ふ、レニ。・・・君なら・・分かるだろう。私はもう・・助からない。
それよりローレンスと・・・アニェスをみてやれ。
彼らには助か・・る可能性がある」
「分かった」
レニはローレンスとアニェスの回収に向かった。
「織・・・姫、君も行・・け」
「いや!あなた何なのよ。普段偉そうなこと言ってるくせに
この様は何?しっかりしなさいよ」
「私は、ミスを・・・犯した。ミュラーが・・・ああいった行動に出る・・ことを
全く考えに・・・入れていなかった。そして、織姫・・・よく覚えておくんだ、
戦場でミスを・・・犯した者は・・・死ぬ。生き残り・・たければ、
この前のような・・・ミスを犯すな。

ああ、冥い。星が・・・落ちてくる。

星組、・・・各機散開。
軽機兵・・を撃破しつつ、
敵将を誘い・・出・・・・せ」

霊子甲冑を操縦するかのように動く北斗の手は
やがて力をなくし、それをつかもうとする織姫の手をすり抜けて
地面に落ちた。

「何なのよ、あなた。最後までお説教?
人の気も知らないで!
だから日本人の男なんて嫌いなのよ!
せめて・・・せめて最期くらい・・・優しい言葉をかけてよ」

星組の戦いは終わり、戦いの跡にはただ風の音とすすり泣きだけが残った。




「隊長を含む3名が死亡、2名が重傷、後遺症の可能性有り。
・・・これでは星組は解散ですな」
「ふむ、やはり個人技だけでは限界があるということか」
「日本軍から要請が来ています。強固な結束を重視した部隊を
設立したいので協力して欲しいとのことです」
「ほう?」
「何でも、隊員は全て女性。隊長に若い男性を置き彼を求心力にして
部隊の結束を強める方針であるとか」
「ほう、本能を利用するというわけか。面白いかもしれんな。
よし、協力してやれ。いずれにせよ魔と戦う者達は必要だ」

星は地に墜ち、やがて花を咲かせる。
その芽生えまではあと少しであった。





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