しのつく雨。 水煙の向こうに寺が見える。 その軒下には一台の乳母車。 中には頑是無い赤子が眠っている。 主はどこへ行ったのか。 目を転ずると、軒下からやや離れた 境内にいくつかの人影が見える。 雨音に混じって金属を打ち鳴らすような音が聞こえる。 時折、光が見えるのは稲光ではない、刀刃の閃きである。 ひとりの男が忍び装束の男達に囲まれている。 男の幅広の剣が閃く度に、忍び装束は一人、又一人と弊れてゆく。 忍び装束は、円陣を組み男の周りを走り始めた。 忍びの集団剣法、「虎乱」。 必殺を旨とする暗殺剣である。 この絶体絶命の窮地を男はいかにして切り抜けるのか。 稲光に照らされた男の行動は信じられないものだった。 ただでさえ重い胴太貫を右手一本で持ち変えると、更に腰の一刀を携えた二刀の構え。 その細面の貴公子然とした容貌と体格からは信じられない膂力である。 「狼虎滅却・天狼転化!」 気合いと共に男の体から異様な光が放出された。 と、同時に運悪く男の正面にいた忍びの体は四散し、 その他の男達は怪しげな光の圧力で四方にはじき飛ばされてしまった。 しばし、呆然とする忍び達に男が無言で迫る。 絶対的な数の有利を覆され、さらに必殺の剣を破られたことで、 忍びの男達をつなぎ止めていた理性の糸は切れた。 こうなっては忍びも、逃げ足が異常に速いことを除けば、 普通の人間と変わりはない。 「ひぃ、ひけぇえぇっ。」 一目散に逃げ出した。 男はそれ以上忍びを追うことはせず、弊した忍びの亡骸を丁重に葬る。 「許せ。我ら親子、冥府魔道をゆくものなれば遮る者は容赦せぬ。」 埋葬を終えたころ、先ほどまでの驟雨が嘘のように上がった。 「行こうか。」 「おにいちゃん!」 雨上がりの参道に親子の姿が小さくなってゆく。 彼らを待ち受ける凄惨な運命も知らぬ道ばたの紫陽花は、 ただ美しく雨露に濡れながら親子を見送るのであった。 「子連れ大神」 キャスト 拝一刀(大神一郎) 大五郎(アイリス) 忍び(魔繰機兵のみなさん) |