「大神はん、紅狼01号の整備はバッチリや。これやったら、蓮にも跳ね馬にも 絶対負けへんで。いっちょかましたれ。」 「ありがとう、紅蘭。必ずトップでチェッカーを受けるから、シャンパンの用意を しておいてくれよ。」 「まかしときぃ。」 F1サーカス最終戦。 二人が年間チャンプを争っていた。 チームロータスのエース、フリオ・アンドレッティの36ポイント。 チームTEIGEKIのエース、大神一郎の36ポイント。 三位以下は全て20ポイント以下である。 つまりこのレースを制した者が年間チャンプとなるわけである。 シグナルレッド、3、2、1。 シグナルブルー。 24台の鋼鉄の狼が一斉に吼える。 大神はダッシュ良くフロントローから飛び出し、第一コーナーの入り口で ポールのフリオの鼻先を押さえトップに立った。 第一コーナーを抜けて、わづかな直線から高速コーナーへ飛び込む。 紅狼01のエンジンが遠吠えのように森に響く。 高速コーナーから抜けると一気にギアを落とし減速。シケインだ。 なんと殺人的なコース。 だが、大神は冷静な動作でマシンをコントロールし、シケインをクリアした。 ここからバックストレート。大きなS字コーナーからヘアピンを起ち上がると コントロールライン。 1周、2周、3周。 大神はミスなくマシンをコントロールしていた。 フリオもすぐ後ろにつけている。 だが、それは16周目に起こった。 高速コーナーから続くシケインで減速に失敗したマシンがクラッシュし、 その破片がコースに残っていたのだ。 それに気づいた大神は、神業のようなドライビングでその破片をコース脇に 跳ね飛ばしたのだ。 それが命取りだった。 無駄な動作をしてしまった大神の紅狼01はフリオのロータスに その隙をつかれ先行を許してしまった。 そのまま、30周が過ぎる。レースはあと6周。 フリオはタイトなライン取りで大神のアタックをかわし続けている。 さしもの大神にも少々焦りが出てきた。 必死で自分に言い聞かせる。 「落ち着け、レースはまだ6周ある。チェッカーを受けるまでは レースは終わりじゃない。」 残りは2周。 その時、フリオのマシンに異常が起きた。 エンジン部分からオイルが噴き出している。 すぐ後ろにつけていた大神のバイザーは油で汚れて視界が悪くなる。 フリオのペースも明らかに落ちている。 チャンスはきっとある。 残り1周。 最終コーナーの立ち上がりでついにフリオに隙が生まれた。 大神はその隙を逃さず、横に並ぶ。 後は直線の加速競争だ。 トラブルのあるフリオのマシンは分が悪い。 だが、大神の視界もほとんどない。 暗闇のトンネルを駆け抜ける。 彼方にチェッカーが見える。 「「勝つのは、俺だ!!」」 「ねえ、紅蘭ばあちゃん。それで結局どっちが勝ったの?」 「どっちと思う?」 「さあ、きっと大神。」 「そう、正解。あんたのおじいちゃんや。」 |